ミエナイチカラ(那須町立高久中学校の取り組み)

知人から小さな本が送られてきました。2014.3月発行『ミエナイチカラ』です。那須町立高久中学校(栃木県)が作成しています。ここには、南三陸町を訪れた中学生の思いが綴られています。那須町立高久中学校出身の方とお知り合いで、この本のことを知り、南三陸町に案内したいので、手伝って欲しいという依頼をしてくれた方から頂きました。ご依頼の件は、もちろん即答「いつでも」です。

ページをめくると、冒頭には、震災から1,2年後と思われる瓦礫や住宅の基礎が取り除かれ、原野のような状態の中に立つ鉄骨だけの防災対策庁舎の写真に「栃木県那須町の高久中学校は、平成17年から南三陸町での体験学習を行っており、震災後は様々な形で支援を行っています。震災後に南三陸町を訪れた2、3年生を中心に詩を書き、先生や生徒が撮った写真を合わせて本にしました。必要な人に届きますように」と、書かれています。

この冒頭の言葉だけでこみ上げてくるものがあります。私は、ここにある情景を昨日のことのように思い出せます。この学校では、震災直後から南三陸町の惨状を知り、訪問は相手に迷惑を掛けると控え、町役場や歌津中学校に手紙や義援金、そして授業で使うボールや手縫いの雑巾を送っています。余震がほぼおさまった震災の2年後には「南三陸町体験学習」を行っています。

当時、私は南三陸町で彼らと時を同じくしていました。彼らが見たこと感じたことを、私も同じように見て感じていました。呆然と立ち尽くす町民にかける言葉もなく、ひたすら寄り添い、一緒に涙を流し、いっしょに何もなくなった街を見ていました。だから、中学生の言葉が、ことさらに胸に響くのです。

町の方が「だんだん時が経つと、いつまで震災の事を言っているんだ、と思われる。一番の支援は、ずっと忘れないでいてくれることだ」と、語った、この言葉が今でも残っていると書いてあります。私も、この言葉は多く聴きました。時間が経つにつれ、この言葉は、「忘れないで欲しい」という懇願のようにも聞こえてきました。

この本は、震災から2年後に行われた体験学習を下に、中学生が南三陸町で東日本大震災と向き合って感じたことが書かれています。頁をめくると、私が南三陸町にいたときに見た光景が生徒の自筆の言葉と共にあります。ほぼ全ての写真に見覚えが有り、中学生の語り全てに「私も同じ気持ちでその場に立っていた」と、一人うなずきました。

「あの日を境に笑顔を失い、家族を失い、光を失い、町を失った。たった一度の大きなゆれで全てを失った。泣き声しかきこえない何も見えない長くて暗い夜の町。そこで時間は止まったままだった。その暗い町に光りがたくさんさした。絆という名のひかりが。顔も知らない名も知らない人々からの復興支援。しだいに町は元気をとりもどし光をもどした」

「そこに町はなかった。ただ残がいだけが広がっていた。しかし、町の人たちは負けなかった。力を合わせて困難を乗り越えようとしている。今、私たちにできること、何ができるか考えること。早く元の町のようにとねがうこと」

このような彼らの語りが何編も写真を添えて綴られています。彼らの言葉は、現実をしっかり目に焼き付け、自問自答しながら紡いでいるように感じます。彼らの言葉は、きっと南三陸町の方々の胸を熱くしたことと思います。

この本の最後には、那須町立高久中学校長の言葉が寄せられ「そして最後に、素晴らしい高久中学校の生徒に拍手を贈ります。今の優しく豊かな気持ちを今後とも大切にしていってほしいと願います」と、結んでいます。なんて素晴らしい先生なんだろう。生徒を信頼し南三陸町に送り出した其の判断力の下には、生徒を信頼し生徒の成長を願う教師の確固たる信念のような者を感じ取れます。教師、生徒そして地域の方々が一体となって震災と向き合う姿がこうした本を世に出しています。この本は、震災への備えの教材として末永く生かされることでしょう。

ここにある中学生と彼らを支える教師。この様な人たちは、これからの日本を支えてくれる大切な財産です。彼らがそして教師が、思いっきり活躍できる「社会」を「環境」を用意してあげたい。私たちの社会は、このような子ども達や教師を支えられる、そんな社会でありたい。心からそう願います。

この本と出会わせてくれて有り難う。いっぱい泣かせてくれて有り難う。この涙は、哀しみの涙ではなく喜びと感謝の涙です。お陰様で、南三陸町と関わったことの意味を改めて確認することができました。そして、この東日本大震災で尊い犠牲でもって私たちに教えてくれた教訓を地域福祉に生かし、安心安全の地域づくりの一助として、今後も頑張っていきたいです。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

ミエナイチカラ(那須町立高久中学校の取り組み)” に対して3件のコメントがあります。

  1. H.Y より:

    おはようございます。
    「ミエナイチカラ」とのこと、ご紹介いただきありがとうございます。涙ぐみながら、もう一度南三陸町に行ってみたいと、その本のことを教えてもらいました。
    今、ちょっと仕事が落ち着かず行けませんが、ぜひ彼女の願いをかなえてあげたいと思っています。よろしくお願いいたします。

    1. 鈴虫 より:

      H.Yさま
      私はこちらで初めて高久中学校の取り組みを知り、たちまち温かい手で背中を押されたような気持ちになりました。
      その当時はさらに熱い気持ちが届けられ、被災地の皆さんとこころの交流があったことと思います。
      あれから11年の時が過ぎ、様々な営みが変化しながら前に進んでいるなかで、カタチあるものはいつかその姿を消してしまいますが、こころで伝えあったことは必ず『ミエナイチカラ』となって、一人ひとりの背中をそっと押し続けてくれていると信じます。

      いいお話を教えて頂いてありがとうございました。

  2. s.m より:

    体験学習で訪れた南三陸町の景色をこの様に切り取り、中学生が感じたままを言葉にして残してくれたとは、少し触れただけでも心の奥まで届く素晴らしい贈りもので、とても励まされた思いです。
    先ずは学校をあげてご指導された先生方が被災地に心を寄せて頂いたからこそ、生徒達をこの地に導いて下さったのですね。
    中学生の多感な時期に、町が根こそぎ津波に持って行かれた場所に立ったことは、決っして忘れられない衝撃的な体験だったことと思います。
    私達の心の中で色褪せる事の無い景色をよその方々の記憶に留めて頂いていることに、心から感謝いたします。復興真っ只中の町も是非見に来て頂きたいです。
    『ミエナイチカラ』私も是非、手に取って読みたいです。図書館にあるといいのですが。

    素晴らしい贈りもののご紹介をありがとうございました。

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