住民同士の交流と行政施策が好循環を築く『核は常に民』のまちづくり

―人口は減っても元気なまちづくり―

岡山県奈義町(なぎちょう)は、合計特殊出生率2.81の“奇跡の町”と言われています。宮城県の合計特殊出所率は、下から第2位の1.09です。最下位は東京の1.04です。宮城県は下から2番目、これをどのように読むのか。

私は、全国で下から二番目に、『子どもを産み育てにくい宮城県』と、読みます。この新聞が出たとき、このことを行政そして私たちはどれほど深刻に受け止めたでしょうか。これが、私たちの意識の現状なのです。

では話を岡山県奈義町に戻しましょう。岡山県奈義町は、なぜここまで合計特殊出生率が高まったのか。そこには子育て支援施策だけではなしえなかった「町民」を核とした活動があります。1.41にまで下がった合計特殊出生率が2.81に。さらに現在も高い水準を維持できていいます。これはどこにその仕掛けがあるのでしょうか。

これを読んでいる方で、人口が少ない田舎町だから独自の施策が行えるのであって、そうでないと独自施策を打つのは難しい。この様にしか考えられない方は、これ以降読み進める必要はありません

私からすれば、人口が少ない基礎自治体は財政基盤が弱く、一般に三割自治と言われるように、国から使い道が厳しく制約される地方交付税に頼らざるを得ないのが実情なのです。そうした中に合っても独自施策を打ち出しているというのは相当の覚悟を持って行政を行っていると言うことなのです。なので、できれば、人口が少ないからできるなどとは考えないで、行政の創意工夫に着目してもらいたいです。

奈義町は、日本創世会議の発表で、2040年には半数の自治体が消滅するという警鐘が打ち鳴らされ、奈義町も「消滅可能性」896自治体に含まれていたのです。2060年には奈義町の人口は現在の半分になると推計され、「これはたいへんじゃぞ」と、町長はこのピンチをチャンスととらえ、2016(平成28)年「奈義町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、次の世代のために思い切った施策や魅力ある施策に取り組むことを決めています。1000人の町民と中高生全員へのアンケート、町内の様々なグループや団体へのインタビューを実施。19人の町民がワークショップ形式で素案をつくり、審議会での議論を経て町から議会に提案され、議決された総合戦略です。

これを下にして、「まちの人事部事業」等のユニークな施策があります。「策定の過程で、子育て中の女性からは、日中に短時間の仕事をしたいが仕事そのものがないという声が寄せられていた」(大内室長)。働いて賃金を得たいという気持ちも当然あるが、それ以上に仕事をしないと社会との接点が持ちづらいと訴える町民が多かった。孤立は住民の流出につながりやすい。

そこで誕生したのが「まちの人事部事業」です。町の中で生まれる仕事を、町民にしてもらうようにしたシステムです。また「しごとコンビニ」「しごとスタンド」を開設して、子育て中の若いお母さんの仕事づくりを行っています。

これらのことは、町民の収入源の確保にもなるが、効用はなんといっても町民同士の接点の増加だといいます。ターゲットとしていた若い子育て層はもちろん、リタイア世代からも「友達ができた」「やりがいができた」といった声が寄せられているというのです。

また町では、子どもが減少する要因として居住環境も大きいと考え、対策を講じています。

「奈義町には民間住宅が少なく、公営住宅は老朽化していた。そのため夫婦二人で生活を始めたい若い世代は、隣の津山市などに出ていってしまっていた」(笠木町長)。例えば企業誘致により町に仕事は生み出すことはできるが、住むところが十分でなければ通勤可能な他都市に出ていってしまう。そこで「新築住宅普及促進事業補助金」や、近隣価格より3割ほど家賃の低い若者向け住宅や定住促進住宅の整備などの移住支援策も強化していったのです。

先進的な子育て支援策や移住支援策、地方創生への取り組みなど、民の協力を得ながら公が主導で動いてきたように見える奈義町だが、一方で、町唯一の保健師であるこども・長寿課の立石奈緒子副参事は「核は町民」と明言しています。「どんなに役場がお金を出しても、一時的なお金だけで人を育てることはできない。子育てする町を選ぶときに、出産祝い金が高いから、予防接種が無料だからといった理由だけでは第2子、第3子を生み育てる気持ちにはなれないのでは」(立石副参事・班長)。

それより重要なのは、いわゆる子育て支援をしてくれたり相談に乗ってくれたりする先輩ママや、なぎチャイルドホームで交流するママ友との交流ではないか、というのです。こうした考えを下にして、母親同士が当番制で保育をし合う自主保育『たけの子』が組織化され、その中で互いの不安が解消されることで、第2子、第3子への自信を持つようになる」と、意識の高まりがあると言います(立石副参事)。

行政と住民が刺激し合い、魅力的な町づくりにつなげてきた結果、高い出生率を維持できていると考えられています。今後に向けてもさらに意欲的な取り組みが始まっています。

我が宮城県でも地域住民レベルで、みんなで子どもの成長を見守り育てようとしている取り組みもあります。宮城県富谷市成田地区で行われている『Naritaマルシェ』です。これが下になって、活動は次第に広がりを増して、住民レベルから、もっと規模の大きい組織的な取り組みへとその姿勢は広がりを持っています。課題に目をそらさず、できることをできる範囲で取り組み、その輪を広げていく。何より、軸足を地元から離さないのが大切だと思っています。

そんな活動が身近にあります。こうした取り組みに対する『姿勢』、『やり方』ではなく『姿勢』(基本設計)を学び、それぞれの場所で花を咲かせてもらいたいです。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

住民同士の交流と行政施策が好循環を築く『核は常に民』のまちづくり” に対して2件のコメントがあります。

  1. 阿部 優 より:

    奈義町は度々話題になるので注目していますが、僕が感じるのは自治体ではなく会社のようだなということ。働く場所も、他によい条件(給与だけではない)の会社があれば転職してしまいます。逆に、社員が自主性を持って会社をよくしよう、働きやすくしようと協力し、それに応える会社は離職率が非常に低い。まずは社員全員へアンケートを実施、素案を作り投票といった流れは奈義町と同じです。この会社で働きたい!と思える仕組みを自分たちで決めることができたら、辞めないどころか実力以上の力を発揮してくれます。楽しそうに働く社員の姿を見て、募集もしてないのに就職希望者が来ることもあります。仙台市も子育て世代が楽しそうに暮らしていれば、出生率も増えるでしょう。本間市議から市長へ上げてもらえませんかね。

  2. スマイル より:

    岡山県の奈義町のご紹介をいただき、本当にありがとうございます。徹底的に、住民目線、子育てしている方の目線にたって考え勇気をもって決断し行動する。その姿勢を本気で持てばできることはたくさんある、夢物語ではないと知ることができて限りない希望と励ましをいただきました。
    本間先生の熱い想いと願いを感じました。
    Naritaマルシェについて『活動は次第に広がりを増して、住民レベルから、もっと規模の大きい組織的な取り組みへとその姿勢は広がりを持っています。』とご紹介いただきましたが、私たちがやっていることはあくまで住民レベルです。でも、そこで感じること、大事だと思うことを機会があれば行政に伝え、連携の気持ちを常に持っていたいと思っていることは確かです。富谷は周りから見たら「羨ましい」と思われることが多い市ではありますが、課題はどこも同じだと思います。「羨ましい」と思われていることで安心してしまうことが心配です。本当に「ここで子育てがしたい!」「ここで暮らし続けたい!」と思ってもらえる市になるためにはどうしたらいいか、常に考え求めていきたいと思います。
    とても貴重な学びとなりました。

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