縮小ニッポンの衝撃 其の六

【農村撤退という選択(島根県益田市匹見下地区)】

益田市は、人口増に特化した施策を担う「人口拡大課」という部署を設けるなどして人口減少社会に対応しようとしています。益田市が、モデルケースとして選んだのが人口300人足らずで高齢化率が一番高い匹見下(ひきみしも)地区。匹見下地区にある17の集落のうち13ヶ所が限界的集落で、そのうち5ヶ所は更に深刻な危機的集落(高齢化率70%以上かつ10戸未満)だという。こうした集落を対象に、人口拡大のモデルケース事業を行おうとしています。

住民たちは、住民自治組織に対する抵抗感があり、「何で今更お役所の仕事を俺たちがやらねばならないんだ」「手切れ金160万円(自治会運営費)渡して行政は何もしない、責任逃れをするつもりか」等々、批判の声が相次いだという。そうした中で、話し合いを続け、活動方針には、「交流人口の拡大でUターンやIターンを増やす」「誰もが健康で長生きできる地域をつくる」「住み続けたい地域をつくる」等が挙げられました。

しかし、住民自治組織を運営していくための自主財源がない、人材不足が深刻等々、期待より不安の方が大きい船出でした。国は、「地域運営組織(=住民組織)は、住民の参加密度を高め、人と人とのつながりを強くし、地域の資源を最大限に活用することにより、行政サービス提供機能の低下によって生じた隙間を埋める役割を果たしてくれる」と期待をかけています。しかし、「何処までが行政の仕事なのか」の議論がないままに、なし崩し的に、住民の互助を求められる領域が拡大する恐れもあるだけに、協議会のメンバーは不安を募らせているのが現状です。

住民も、ここまでにいたったことを反省し、「住んでいる我々ものんきにしていた。いつかいつかと思いながらも、結局、みんな危機意識を持たないまま今にいたっている」「自分たちはゆでガエル」と自嘲しています。

学者の間では、過疎対策、農村再生、地方活性化の議論に変化が出ています。これまでタブー視されてきた「集落消滅」や「地域縮小」と直接向き合う議論が活発になり始めているのです。高齢化が著しい過疎地には、住民の生活と共同体を守り、地域環境の持続性を高めるために、一定規模の拠点集落にまとまって移住する「集団移転」が提唱されています。消滅を座して待つくらいなら、余力のあるうちに皆で麓に降りるという選択肢もあって良いのではないかと話しています。

こうした住民の勉強会の中では、「撤退」するくらいなら、最後まで頑張って「玉砕」した方がましだ、といった意見が出るなど紛糾しています。一方、「撤退」(麓に降りる)とは「力の温存」というふうに考える人も出て来ています。「今こそ、進むべきは進み、引くべきは少し引いて確実に守るという発想が必要なのではないか」と。こうした、両極端の議論に対して、研究者は、「あくまで住民たちが納得して選択することが大切」と繰り返し発言し、住民に現状把握と将来像について自ら考え選択することを求めています。

今日の縮小ニッポンの現状に対して、これまでの「地方再生」一辺倒の議論だけでは到底解決しない厳然たる減じるがあります。消滅や再編(撤退)をタブー視していては何も進まない。何を守り、何を諦めるのか。私たち一人ひとりが自分の問題として考え、戦略を持って選び取る時代に来ているのです。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

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