縮小ニッポンの衝撃 其の五

【住民組織に委ねられた縮小社会の未来(島根県・雲南市)】

これからの地域を支える重要施策として挙げた住民との協働の仕組みを具現化したのが、「地域運営組織」と呼ばれる住民組織に一定の自治を委譲する制度です。人口4万人の島根県雲南市は、全国に先駆けて住民自治に取り組んでいます。雲南市は、地域住民の力を結集し、行政のパートナーとなってもらうために市内を30地区に分け、住民全員をメンバーとする地域運営組織を「地域自治組織」と名付けて、自治会よりも規模が大きく小学校エリアを単位として、地域の課題を住民自らが担い手となって解決することができる組織づくりを進めました。約2年間で全地区に地域自治組織が立ち上がりました。

地域自治組織には、毎年平均800万円の「地域づくり活動等交付金」が支給され、その使い道は各組織に委ねられています、住民組織は、将来の地域の姿を自ら描き、限られた財源の中で、何を優先するのかを考えて、地域に必要な事業を企画・運営していきます。行政の仕事を、財政難や人員不足を盾に、行政の仕事を住民に安価で任せているのではないかとの指摘に、行政の担当者は、「住民一人ひとりが力を発揮しなければ、この社会は成り立たなくなっている。この現状をしっかりと受け止め、将来を見通したときに必要な先行投資だと考えている」と、答えています。

【人口減対策に積極的行動を起こした雲南市海潮地区】

雲南市の30の地区の中でも“優等生”的存在として注目されているのが海潮地区。この地区では、人口減少問題を地域の一番の課題と捉え、人口増に関わる様々な活動を展開しています。移住者を呼び込むための「田舎暮らし体験ツアー」開催。この事業をすることで、住民の意識が大きく変わったといいます。外の人の視点をとして、地元住民が「自分たちの暮らす場所は魅力的な場所なのだ」「自分たちのもてなしをよろこんでくれる人がいる」等々と自分たちの住む地域に自信を持つようになったといいます。小さな成功体験は新たな活動へ繋がっていきます。その後、近隣の大都市に出向き「Uターンを呼びかける交流事業」、「婚活イベント」など、移住者を呼び込む活動を次から次へと繰り広げています。また、共働き世帯が住みやすい場所にするために、住民自治組織自ら幼稚園の一部を借り上げ、幼稚園の放課後の預かり保育所を開設しています。

自治組織の責任者は、これまでの活動を振り返り、「地域の課題にこまめに対応して小さくても様々な事業を行ってきた。この積み重ねの中で住民達の“地域”への意識が年々高まっているのを感じている。すくなくともこういう動きのある間は地域は元気だし、地域消滅なんていわれないで、まだまだ可能性は広がっているし、打つ手はあると思っている」と、語っています。

しかし、これほどやっても海潮地区の人口減少を食い止めることは難しく、先行き不安はぬぐいきれない現状があるといいます。「今住んでいる人たちは、この現状に立ち向かっていかなければいけないという気持ちに揺らぎはなく、だからここに住んでいる。逃げ出すといっても逃げ出すところもない。とにかく動きを止めるわけにはいかない」と、語っています。

【縮小を受け入れた地域(雲南市鍋山地区)】

雲南市海潮地区のように、外からの移住者を呼び込み積極的に移住人口の増加を地域挙げて取り組んだ所もあれば、雲南市鍋山地区のように「無理をしない地域づくり」を進める地域もあります。鍋山地区の会長は。「ここを出て行った人も鍋山が嫌いで出て行ったわけでもない。鍋山を出た人が非難されるべきではないし、残った人が惨めなわけでもない。ここで住み続けようとする思う人たちが、無理せずに負担を感じずに生活できるために必要なことをやりたいと思う。だから『無理をしない地域づくり』を合い言葉にしている」と、いいます。鍋山地区では、「少なくなる人口の中で、どうすれば幸せに生きていけるか」に目を向けているのです。

この為、高齢世帯に弁当を配ったり、移動販売者の導入を手伝ったり、単身高齢者に携帯電話を配付し、緊急時の連絡体制を整えるなど、この地域で暮らしてきて、この地域で人生を終えたいと思う人がいつまでも安心して幸せに暮らし続けるための環境を整えることに精力を注いでいます。見守りを兼ねた「水道検針事業」なども行っています。最近では、水道検針に保健師が同行し健康相談を同時に行うなど、事業に厚みが出て来たといいます。

しかし、活動を続ける中で、避けては通れない現実が迫ってきているのも感じています。毎年、一定数の高齢者が亡くなっていく現実に抗(あらが)うことはできない。20年後の鍋山地区の人口は半数まで減るといいます。

人口減少に苦しむ集落支援を行っている専門家は、集落の将来を確実に見通すことを助言しています。集落全体の環境とそのとき残っているだろう担い手の負担を照らし合わせながら、森に返すエリア、集落全体で保持・活用するエリアなどと考えていくことが必要で、集落の担い手の減少に応じて、維持管理の難しい場所を住民自らが選び、「集約」すべきと提案しています。

重ねてその専門家は、「いま、動き出さなければ、将来、集落での生活にかかる負担が増え、少ない担い手さえも失い、ますます集落の維持が難しくなる。この為、今少し無理をしてでも準備をしておけば、最期まで心から住みたいとい思える集落を維持することができるのです」と続けています。これに対して住民は、地区内の状況の「見える化」を行い、集落の将来について議論を進め「かなり大変な話し合いになるかも知れないが、自分たちで提案していかなければいけない」と覚悟を持って臨んでいます。

行政主導や単一の価値観で、納得のいかない将来を歩まざるを得ないよりは、自分の暮らす地域の将来を自分たちの価値観で描ける方が幸福だろう。描いた未来について近づいていけるのかどうか、そのための活路を住民たち自身で切り開いていくのは決して容易ではない。でも、座して消滅を待つよりはよほど建設的で納得がいくであろうと思います。地域のリーダーは、この様にいいます。

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