保健体育 第3講『私たちの脳は1万2000年前と同じ』

毎月第3月曜日は『保健体育』の時間です。この講座では、健康的な暮らしの営みに資する様々な知見・智慧を学びます。皆さんのセルフケアスキルを高めるための生活の知恵や最新情報を探し、お届けしていきたいと思っています。

今回は運動を求める脳のお話しです。生物学的には、私たちの脳と身体は、今でもサバンナ気候(地帯)の中にいる。そこで狩猟採集で暮らしをいた何でいる人類と同レベルだというのです(Anders Hansen 2022)。

サバンナは、、アフリカ大陸・東南アジア・オセアニア・中南米の、緯度が南北10~20度の範囲です。年平均気温が20℃以上、年降水量が1000ミリ前後のところにできる草原地帯です。イネ科の草が密生した草原に、丈の低い樹木が散生するような景観をもっています。このイネ科の草が草食動物を養い、それを捕食する様々な肉食動物の生活を支えています。

この様な場所で、大型動物を原始人が集団で追いかけている。私たち人類は、1万2000年前のこうした原始人類とほとんど変わっていないと言います。

私たちの生活習慣は、100年単位で見ても激変してるのですが、ましてやサバンナで大型動物を追いかけていた1万2000年前と比べれば、比較にならない変化をもたらしています。私たちは、人類の英知で生み出された様々な動議を駆使し快適でスピーディーな暮らしを営んでいます。この辺に、今回取り上げた『脳を知る』のポイントがあります。

私たちの生活習慣と1万2000年前の原始時代との生活習慣で根本的な違いがあると言います。原始時代の人々は、今の私たちより『はるかによく動く』ということです。そんなに前でなくとも、私たちの祖先は現在の私たちよりもはるかに活発に動き回っていました。

ほとんどの時代、十分な道具がないことから、身体を動かさなければ食料を手に入れることも、身を守り生き延びることも出来なかったのです。この為、私たちの身体は『動く』のに適したつくりになっています。このことは、『脳』でも例外ではありません。

人類の進化という視点では、100年といえば3世代前。私は2年前の『四国八十八ヶ寺歩きお遍路』で1万2000年前の弘法大師空海の修行の足跡を辿ったのですが、もう歴史教科書の世界です。ましてや1万2000年となれば、永遠の時のようで、研究者の知見に頼ざるを得ません。

ですが、生物学的な見地に立てば、この時間は、ほんの一瞬に過ぎない。どのような種でも、進化の過程で大きな変化が起きるまでには途方もない歳月がかかるのです。

こうした視点からすると、私たち人類においても同じで、私たちの『脳』は、100年経っても1万2000年経ってもさほど大きく変化はしていないのです。

私たちの生活習慣は、一変してしまい、元々の身体が適応していた生活から、大きく遠ざかってしまいました。しかし、私たちの『脳』は、そんなに簡単に変わることはなく、今もまだサバンナで暮らしている時と大きくは変わらないのです。

出典:アンディッシュ・ハンセン 訳御舩由美子,2022『運動脳』サンマークス出版.

私たちの『脳』は、活発に身体を動かすときに最適化するように出来ています。即ち、狩りをするときにサバンナを走り回り獲物を追いかけ仕留めるときに最も効率的に機能するように出来ているのです。

私たちの生活は、とても便利になり、食料を得るために狩りに出ることを必要とせず、最短は「ポチっっと」するだけで手に入ります。この状態での『脳』は、効率的に使われているとは言えません。

私たちは、こうした体験は、良くしているように思います。散歩をしているときに、思考回路がクリエイティブになるとかは多くの方が実感していると思います。更に、考えことをするときに、部屋の中をグルグル歩き回る等したことがありませんか。

「哲学の道」一度は聞いたことがあると思います。銀閣寺と南禅寺(正確には、若王子神社)の間を結ぶ約2kmの散歩道。20世紀初期の哲学者である京都大学教授 西田幾太郎や田辺元が、毎朝この道を散策しながら思索にふけったことにちなんで名付けられています。

私たちは、「狩りに出よう」とは言いませんが、ほんの少し便利な道具を横に置いて、もっと自分の身体を動かせは、私たちの『脳』は、今よりもずっと効率よく機能してくれるでしょう。

ウオーキングで、脳の各領域が互いに協力し、脳の働きが改善されたという臨床データもあります。加齢の影響を最も受け易いとされる前頭葉と側頭葉に改善が見られ、加齢の進行が食い止められたと言います。

更には、ウオーキングは認知機能にも影響をもたらし、「実行機能」(実行制御)機能に向上が見られたのです。要するに、身体を活発に動かした人の脳は、機能が向上し加齢による悪影響が抑制され、むしろ脳が若返るという結果が出たのです。

脳は、昨日の脳と今日の脳とは同じではない。脳は、永遠に開発途上中だと筆者は語ります。脳の機能は、脳細胞の数や重さ(総量)で決まるわけではありません。脳細胞と脳細胞をつなぐ神経細胞同(ニューロン)同士の結合による新たな回路ニューロンネットワークが、脳の働きの善し悪しを決めるのです。

運動や他者との関わりにより、自宅に閉じこもりっきりやテレビの前でごろ寝だけの生活等々は、フレイル(病気ではないけれど、年齢とともに、筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態)の視点で語られ、介護予防の必要性を問う時に時に「運動や他者との関わり」の必要性が説かれますが、実は、ニューロンネットワーク形成の促進という視点でも極めて重要です。

自分が持っている『脳』を最大限に機能発揮させ、健康で若々しい生活を営む為にも『運動』『他者との関わり』は、極めた重要な行為のようです。

朝のラジオ体操
ラジオ体操その後のお茶会
約1時間の社会貢献(社会的役割獲得)

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