民生委員児童委員試論 第3講『毎年この時期にやっていること』

前回の民生委員制度の概要に続き、具体的活動内容について触れまました。一般的にこの様な活動を行っていますという概要を箇条書きでお示ししました。

今回は、その箇条書きの活動の詳細を書く予定でしたが、変更をして、現在行政から求められて行っていることを書きます。

現在、行政の求めに応じて「新たに75歳(後期高齢者)になった方の世帯調査」を行っています。この調査の目的は、地域での見守り活動等を行うための基礎資料を得ることや個別支援につなげることを目的として行う、とあります。調査期間は6月1日から9月30日迄です。

該当の世帯に民生委員児童委員が直接出向き、面接型で聞き取り調査を行います。主な聞き取り項目は、①世帯状況(一人住まい、高齢二人住まい等)②身体の状況(外出出来るか等)③要介護の認定状況等々です。

この時期になると、私はいつも疑問に思うのです。行政は、この聞き取り調査内容に関する基本情報は「既に持っている」と思います。どこの市町村でも世帯情報や介護認定の情報は持っています。それなのに、なぜ民生委員児童委員が聞き取り調査を行わなければいけないのか、私には理解出来ません。そして、3年に一度は、75歳以上高齢者全ての方々を直接面接型で、同種の内容の聞き取り調査を行います。これはもう人数が多く、とても大変な調査です。

行政は情報を持っているのにもかかわらず、なぜ民生委員児童委員に聞き取り調査を行わせるのか。理由は二つ考えられます。

①持ちうる情報を行政の内部で共有できない。即ち、介護保険に関する情報は介護保険関連業務で使用する情報なので、介護保険担当課だけでしか使えず、その他に使うことは「個人情報保護法」で厳しく制限されています。また、世帯情報も同様に他部局が使用すれば、「目的外使用」となり個人情報保護法に抵触するからです。

②介護保険に関することや世帯情報を聞き取らせるのは「口実」で、その口実を利用して、民生委員児童委員と対象者とを直接合わせ、顔つなぎの機会にしている。

①の理由は、住民の健康と安全を守る民生委員児童委員活動の為の情報提供は「目的外使用」には当たらないと考えます。百歩引き下がり、目的外だとしても、民生委員児童委員の地区住民の安全安心を守るための活動に使うという理由で、個人情報保護審査会にかけて承認を取る等すれば、情報提供は得られるものと解します。なので、やっていないだけなのでしょう。

だとすれば、理由は②となります。私は、きっと対象者と関わりを持つ機会を設けるという行政の親心で、この様な非常に大きな労力を投下して調査を行わせているのではないかと考えています。

しかし、せっかくの顔合わせの機会を設けてくれるのであれば、お聴きする内容に工夫が必要だと思っています。例えば、「社会的孤立状態になっていないかどうか」「近くに身内が居るかどうか」等々、地域生活を継続するに際しての環境について把握出来る聞き取り項目であれば、民生委員児童委員の活動に必要不可欠の情報を得られるのではないかと思うのです。

しかし、現状では聞き取り項目ではないので、この様なことを聞くことは「人様の生活に立ち入ったことを聞く」ということになり、現実は難しく、把握できていないのが現状なのです。

せっかくの機会なので、この様に、一人暮らしや老老二人暮らしが多くなり、「遠くの身内より近くの他人」が現実社会になっている今日、こうした暮らしを支える環境に関する把握が最も大切なのではないかと考えています。しかし、民生委員児童委員は、こうした情報を得ることは「個々人の個人的な事情に立ち入ることになる」ので難しい。だからこそ、行政が民生委員児童委員をサポートする調査項目が必要になってくるのです。行政は、もっと民生委員児童委員の活動を利用するだけではなくサポートしてもらいたい。私の切なる願いです。

毎年のように行われている、地域住民の把握一つだけでも、こうした課題があります。でも、こうした課題を一つひとつ現実に合わせていくことで、民生委員児童委員の活動は、もう少し過度な負担のない姿で行われるように思います。そうした改善が、結果として欠員を少しでも減らすことに繋がるのではないかと思います。

民生委員児童委員は、「地域の安心安全」や「住み慣れた地域に住み続けることを支える」という視点でとても大切だと思っています。なので、少しでもこうした課題が解説していくことを願っています。

永平寺『唐門』
永平寺『一葉観音菩薩』

上記二枚の写真は、本文と関係ありません。仙台から永平寺まで約700キロを1ヶ月掛けて歩いて行った時の写真です(撮影日2025年6月21日)。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

民生委員児童委員試論 第3講『毎年この時期にやっていること』” に対して2件のコメントがあります。

  1. ハチドリ より:

    今回の記事で、先生が一番言いたいこと、投げかけたかったことは何だろうと考えてみました。

    新たに75歳になった方の世帯調査を行ったり、3年に1度は75歳以上の高齢者すべての方々の面接調査を行うという活動があるとのこと。これらの活動は、以前教えていただいた、あくまでも本間先生が民生委員として行われているという、具体的活動の中の⑨の「行政及び福祉関連からの求めに応じて地域生活実態の把握及び報告」というところに入る活動なのかと思いました。

    高齢者の実態把握調査は大切な活動だと思います。行政が把握していない部分もあると思いますよ。

    最初、これらの訪問の人数が多くて大変なのかな・・と思ってしまいましたが、いやいやそうではありませんね。初めてのお宅に、行政からの依頼として家庭訪問により顔つなぎができることはむしろありがたい。そして、できればこの訪問で、地域生活を安心安全に過ごしてもらうために今課題になっていることはないのかの把握や、もし万が一何かあった場合に相談できる人はいるのかとか、連絡先が把握できるいいチャンスにしたい。
    しかし、現実的には、それらは行政から頼まれている項目には入っていないし、「個人的な事情に立ち入ることになる」ので難しいということなのですね。であるなら、「安心安全に地域で暮らしていくために、民生委員を通して聞いてもらっています」などの行政からのお触れ(サポート)があったらいいのに・・というのが、先生の願いという認識で良いでしょうか。ずれていたらすみません。

    もし私だったら・・、フラッと聞いてしまいそうです。答えたくないと言うのであればそれもよし(仕方ない)。もしお話をしてくださったら、「このことを行政にも伝えておいてもいいですか?」と同意をいただいておく。「いえ、民生委員さんだけに」という方がいればそのように受け止める。

    多くの民生委員の方たちがどのような活動をなさり、希望しているのかはわかりませんが、少なくても、信頼されればされるほど民生委員さんは地域の中のよろず相談役的な活動になっていくのでしょう。そのためにも先生が書かれていた質問項目の工夫や緊急時に連絡が取れる方の有無や居場所を把握しておくことは必要なのではないかと私も思います。

    そんなふうに地域の中で頑張ってくださる民生委員さんがいらっしゃるのですから、私たちは、地域(ご近所)の関係性や力が育っていけるよう努力していかないとならないですよね。地域づきあいって、煩わしいことや面倒なことが時にはありますが、引越しをして2年、ご挨拶はできるだけ大きな声と笑顔で、もっと地域で行われていることに関心や身体を向けて顔と顔がちゃんと見える関係になり、何かあったら私も手助けができる一員になりたいなと、思いを新たにしました。

    先生、お疲れ様です。
    頑張ってくださいね。

  2. スマイル より:

    民生委員さんが抱えるジレンマがとてもよく伝わってきました。県職員として行政に関わり、その立場もわかる本間先生だからこそ伝えることができる内容だとも思いました。

    「お互い様の地域」「助け合える地域」になるのはかなり難しい道のりだと感じます。民生委員さんの在り方をよりよいものにするためには、どんな肩書きの人も(行政の人であっても)「一市民」として地域のありようを肌で感じることが大切なのではないか、と思います。それなくして頭であれこれシミュレーションしていても、同じところをぐるぐる循環しているだけ、となりかねないのではないかしら。だからこそ、本間先生が今一人の住人として地域と関わることで見えてくることが大事だと感じます。

    私もまず地域に暮らす一人の住人として、手の届くところから、手の届く関係性から「ここに住んで良かったね」と笑い合える関係をつくっていこうと、あらためて思いました。

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