東北大学社会学研究室の恩師、「公共社会学」の普及発展を目指す
東北大学大学院に在学中に大変お世話になった先生が、東北大学を定年退職し、現在は尚絅大学大学院で新たな社会学の分野を拓こうとしています。「共生社会学」です。
共生社会学(public sociology)は、マイケル・ブラウオイ(Michael Burawoy:カリフォルニア大学バークレー校社会学教授)が提唱した新しい社会学の分野です。マイケル・ブラウオイは、2004(平成16)年のアメリカ社会学会大会における会長講演(「公共社会学へ向けて」”For Public Sociology”, 2004)で「公共社会学public sociology」の重要性を主張し、社会学知を学術コミュニティの中のみに閉ざすのではなく、大衆に還元していくことの重要性を示しました。
長谷川先生は、この講演を現地で直接聴き深く共感したと言います。東北大学大学院を定年退職して、教育・研究の場を尚絅大学大学院に移し、これまで温めてきた、日本では例がない「共生社会学」を広め、市民と対話する社会学を目指そうとしています。
尚絅学院大学では、2023(令和5)年度から、公共社会学を掲げる、大学院としては日本初の教育課程、公共社会学専攻の開設をめざして準備中です(設置認可申請中)。私が参加した今回のフォーラムは、公共社会学への関心を喚起するために、3回連続で行われる公共社会学フォーラムです。10月1日開催の第1回のテーマは、「震災復興と公共社会学」です。国の視点・災害社会学の視点・地域住民の視点・外部からの支援者の視点等を交差させて、震災復興からの11年を振り返り、今後の課題・教訓等を掘り下げるとしています。
元復興庁事務次官の基調講演後には、尚絅大学大学院客員教授(河北新報元論説委員)や災害社会学・地域社会学を専門とする尚絅大学特任教授等をパネラーとするディスカッションが行われました。詳細は、後日尚絅大学大学院から報告されるものと思いますのでここでは省きますが、現場に軸足を置いたお話が聞けて大変参考になりました。
私も、発言を求められたので、二つについて感想を含めてお話ししました。一つは「非営利部門」(NPO等の活躍)の存在が大きいとの発表があったので、東日本大震災では被災市民が被災者支援の最前線に立ったことについての言及が不足しているのではないかというお話しをしました。もう一つは震災伝承館の伝承内容が、「命を守る」ことに重きを置いているには重要だが、それに併せて長い避難生活や広域での避難生活を支えた市民の活動やボランティア意識のない住民組織(災害公営住宅自治会)に対する言及が非常に弱いことを指摘しました。
東日本大震災は、「大規模化」「広域化」及び「長期化」という、これまでには例のない困難さを抱えた災害です。この為、特に「広域化」「長期化」という中で、どの様に向き合い支え合って来たのかは、東日本大震災での学びを伝承する際、極めて大きな欠くことのできない要素なのではないかと思っています。この視点での対応や知恵、そしてそのいずれにも市民が大きく関わっていることこそが、東日本大震災から伝承すべき大切な内容だと思うのです。
これから様々な機会に「公共社会学」の議論が私たちに向けられると思います。期待を持って公共社会学のいう「市民と対話する社会学」をみていきたいと思っています。