外国人技能実習制度と引きこもり対策
近頃、良く見かけるのですが、ホテルのフロント、コンビニ等々、至る所で外国の方ではないかと思われる方々が仕事をしています。農業・水産業・鉱業(第一次産業)、製造業・建設業(第二次産業)及びサービス業(第三次産業)と、様々な業種で見受けられます。しかし、マスコミで見聞きする「外国人技能実習制度」の評判は良くなく、とても気になっていました。
外国人技能実習制度は、1993(平成5)年に「技能実習制度に係る出入国在留管理上の取扱いに関する指針」(平成5年法務省告示第141号)により、在留資格「特定活動」の一類型として「技能実習制度」が創設されました。その後、紆余曲折を経て、2010(平成22)年に「出入国在留管理及び難民認定法」の改正により研修・技能実習制度が在留資格「技能実習」の創設により事実上一本化され、今日に至っています。
「技能実習制度」の本来の目的は、我が国で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域への移転を図り、当該開発途上地域の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという国際協調の推進です。しかし、現実は国内労働力不足を補う海外からの「労働力の確保」に他なりません。この、「労働力の確保」という裏目的?が「技能実習」の年限と受入れ人数枠を拡大してきています。建前上は「技能等の適正な修得、習熟又は熟達」であるかのように装っていますが、「技能実習」を取り巻く現実とのギャップが益々大きくなってきている状況が顕著になっているように感じます。
技能実習制度の目的は、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進すること」とされ、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と法律で定められています。しかし現実は、企業側にとっては「労働力の補充」、実習生にとっては「出稼ぎ」となり、建前と本音が乖離している状況にあると、各方面から指摘されています。
こうした状況を踏まえ、日本弁護士連合会は、技能実習制度の廃止と特定技能制度の改革に関する意見書(2022年4月15日)を出し、「技能実習制度は直ちに廃止し,技能実習制度を活用することにより労働者不足を補うこととなっている実態は直ちに見直されなければならない」と、しています。
技能実習生の受入れ数は,2016年10月末時点では、21万1108人であったところ、2020年10月末時点では,40万2,356人と過去5年間でおよそ2倍に増え、在留資格別の外国人労働者の内訳でも実に23.3%を技能実習生が占めるに至っています。そのうち半数以上の技能実習生(54.2%)が製造業に従事しており、製造業に従事する外国人労働者48万2002人のうち、およそ半数に迫る21万8069人が技能実習生です(出典:上記日本弁護士連合会意見書)。
第208回国会の衆議院厚生労働委員会厚生労働大臣所信表明演説(令和4年2月25日)では、「外国人労働者については、雇用の維持や就職の支援を強化するとともに、その有する能力を有効に発揮できる適正な環境での受入れを促進します。また、技能実習制度の一層の適正化に努めます。」と語っています。また、技能実習制度に関する国の予算は、外国人技能実習機構に対する交付金4,944,708千円が充てられ、「制度趣旨を徹底し、制度の適正化及び拡充を図るため、外国人技能実習機構において、監理団体・実習実施者の適正化、人権侵害等の防止・対策、送出し機関の適正化、技能等の修得・移転の確保、対象職種の拡大等に関する業務等を行う」と、しています。
一方、国内にはこの様な現状があります。内閣府は、2018(平成30)年度に行った「生活状況に関する調査」結果を以下のようにまとめています。
①満40歳から満64歳までのひきこもりの出現率は1.45%で、推計数は61.3万人いる
②ひきこもり状態になってから7年以上経過した方が約5割を占め、長期に及んでいる傾向が認められる
③専業主婦や家事手伝いのひきこもりも存在する
④ひきこもり状態になった年齢が全年齢層に大きな偏りなく分布している
2015(平成27)年度に実施した満15歳から満39歳までの者を対象とした調査でも人口の1.57%に当たる54.1万人がひきこもり状態にあると推計されており、「ひきこもり」は、どの年齢層にも、どんな立場の者にもみられるものであり、どの年齢層からでも、実に多様なきっかけでなりうるものであることが分かる。
2022(令和4)年度、国の「生活困窮者自立支援・ひきこもり支援の推進」に充てる予算は674億円です。技能実習制度の49億4千万円と比較して多いように感じますが、674億円の多くは「生活困窮者自立支援」(生保転落防止)に充てられています。引きこもり支援の事業内容は、「ひきこもり地域支援センターの設置を中核市に拡大する等、より身近な基礎自治体における相談窓口の設置や支援内容の充実を図るとともに、都道府県がバックアップする体制を構築」と、相談窓口設置だけなのです。
私が今回の投稿で言いたいのは、外国人技能実習制度(対象者40万人)という、趣旨と実態に大きな乖離が有り、外国人労働者に低賃金で過酷な労働を強いている制度への投資(国費投入)よりも、国内の引きこもり対策で61万3千人の人々を就労の場に導く為の投資が欲しいと思うのです。外国の若い人々に、低賃金で過酷な労働を強い、日本に対する悪い印象を持たせたのでは、これからの日本にとっていいことは何もありません。この「技能実習」等といった表向きの言葉で誤魔化すのは、早急に改善する必要があります。同時に、もっと国内にいる、そしてそれぞれの家庭でも困り果てている「引きこもり」の方々が、社会に出て、願わくば納税者になれるように、息の長い支援が待たれます。
61万3千人の方々が労働力として社会に出て行けるようになれば、我が国の労働力不足(社会的就労も含む)の一助ともなります。単なる相談窓口だけではなく、もっと具体的で長期にわたる支援が待たれます。このことによって、本人はもとよりご家族にとっても、安心して地域生活が営める為の大切な施策になると思います。