東日本大震災との向き合い「現職最後の20日間」其の三

前回11日は、沿岸地域で被災した特別養護老人ホーム等の入所施設で生活する方々の、内陸部市町村での受入について書きました。介護施設にも合理化の波が押し寄せており、様々な介護用品がアウトソーシング(部外からの調達)されています。この為、在庫はほとんど行われず、補給ラインの円滑な循環を前提として運営されているのです。この為、災害などによる交通網の遮断が生じると、途端に通常の生活環境に支障が出てしまう脆さ(もろさ)を露呈してしまいます。

この様な状況に対応するためには、地域の離れた場所の施設との総合支援協定締結などの自助防衛策を講じておく必要があるようです。宮城県内の事例では、同一法人内で避難と受入が行われ他事例は多々ありますが、他の法人や他県での受入となると少ないように思います。近年の災害は、災害の甚大化、広域化及び長期化の傾向が顕著です。この為、自己防衛力を高めるだけでは対応は難しく、相互支援体制の整備強化が喫緊の課題と考えています。これまでに取り上げたことの他に、当時感じたことを少し挙げて見ます。

はじめは、支援の資源(人・物)は、被災の現場だけではなく避難先にも行き渡るようにすべきだということです。どうしてもマスコミは、被災地の情報に集中し、被災した方々が現地を離れて避難していることに対する報道が極めて少ないです。小規模の災害の場合は、従来のような支援体勢で構わないのですが、上記にも書いたように、災害の甚大化、広域化及び長期化の傾向が顕著な中にあっては、被災地を離れて避難する場合は出てきます。この為、他地域、他県等の避難先での支援について、これまで以上に意識を向ける必要があります。

河北新2011.03.12
河北新報2011.03.27

次は、日常的に医療依存度の高い方への支援です。当時、在宅で生活する医療依存度の高い方で大変な状況になったのが「人工透析患者」です。わが国で一般的に行われている血液透析は、週3回(1回3~6時間未満)を標準血液透析とされています。停電及び断水の影響を死と直結する形で受けたのが人工透析患者の方々です。人工透析は、補助電源設備が整い、備蓄が大量にあり優先的に給水を受けられる大病院だけはなく、小規模なクリニック(診療所)で行われていることも多いのです。東日本大震災の時も、真っ先にSOSの電話が入ったのは、人工透析を行っているクリニック(診療所)でした。また、車で通院する為に必要な自家用車の燃料(ガソリン)の問題でした。このことは、医療的ケア児やALS(筋萎縮性側索硬化症)患者など、人工呼吸器やたん吸引など、常時電気を必要とする方々にも共通しています。ある程度予備電源は確保していますが長期的にカバーできるほどのものではありません。

私の知人が、あるとき話していました。経済対策(人気取り?)で5万円や10万円を全国民に給付するという話が出たときのことです。「日本は災害が頻発しているので、現金をばらまくのではなく、災害の備えとして非常用電源を配れば良いのにな~」っていっていたのです。私も全く同感でした。宿泊割りで観光も良いかもしれませんが、血税を使うのならもっと身近な生活の安心安全に関わる設備投資で、国民一人ひとりが減災意識を高める機会にもなるので、一石なん鳥にもなる提案ではないかと思います。

三つ目は、「油断」についてです。東日本大震災で全く想定していなかったのは、ガソリンが手に入らなくなったことです。寒い中で、少なくなった自家用車の燃料(ガソリン)を節約するためにエンジンを止めて、当然暖房無しで何時間もガソリンスタンドに並び、給油できた量は10リッターのみ。多くのみなさんが経験したことと思います。水は、命に関わるので、行政が迅速に対応しますが、ガソリンとなると民間の努力に委ねられてしまいます。当時、石巻市に住んでいた職員で、妻と子どもが行方不明になっている同僚がいました。探しに行きたくとも仕事もあるし、だいいち自家用車にガソリンがほぼ無かったのです。そんな職員をみて、幸い私の車にはガソリンが満タンだったので、「これ使ってみつられるまで行ってこい」と車の鍵を渡したことがありました。

当時、私たちは自家用車の燃料は、燃料メーターが半分を示したら給油する習慣を付けようとした方も多かったのではないでしょうか。しかし、東日本大震災から11年経って、今でもそれを意識している方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。身近にできる減災は意外と多いです。こんな些細な取り組みは、有事の時に慌てなくてもすむ大切な備えになるように思います。

四つ目は、食糧確保です。災害が発生すると真っ先に気にするのが水と食料です。これも、前述したのと同じように、災害直後は、多少意識するのですが、ほんのわずか時間が経っただけで、当時の深刻さを忘れてしまいます。かといって、災害備蓄の為に長期保存の利く水や食料を備えておくのはなかなか難しいです。災害が起こったときは、支援の手が入るまでの3日分は自己調達できるようにしておくことが勧められています。

食料備蓄と言うと、何か大変そうなのですが、「ローリングストック」という日常のちょっとした工夫で行える食料備蓄もあります。ローリングストックとは、普段の食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分を買い足すことで、常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つための方法です。また、飲料水は、通常のミネラルウォーターは約2年程度持ちます。保存水と呼ばれるミネラルウォーターの賞味期限は、5年~10年になります。これをするには相当意識を高く持たないとなかなか難しい。しかし、水道水でも塩素による消毒効果により3日程度は、飲料水として使用可能です。フタのできる清潔な容器に口もといっぱいまで水道水を入れて、しっかりとフタを閉め、直射日光を避けて、室温の低い所に保存する(農林水産省)。この程度ならできそうです。この機会に試してみませんか。

私たちは、「のど元過ぎれば・・・」の傾向があります。寺田寅彦は「天災は忘れた頃来る」といいましたが、近頃は日本のあちこちで頻発し、つい1ヶ月前の3月16日には、宮城、福島両県で最大震度6強を観測した大きな地震が発生し、3人の方がなくなり207人が負傷、住宅損壊は1万9千417棟を数えます。首都圏とつながる大動脈、東北新幹線もようやく再開したばかりです。

忘れた頃ではなく、まだ記憶に新しい中、日本のどこかで起きている状況です。特別なこととしてではなく、微々たることでも自分でもできることを日常生活行為として行う、そんな習慣づけが必要のようです。

すいません、もう一回だけ書かせて下さい。次回は、なぜ南三陸町に行ったのかを書いて「南三陸町被災者支援」に入ります。今回も、思いつくままのとりとめない次述で申し訳ないです。次回から、頑張ります。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

東日本大震災との向き合い「現職最後の20日間」其の三” に対して5件のコメントがあります。

  1. ハチドリ より:

    ローリングストック、私の職場でも最近備蓄していたペットボトルの水の期限が近づいてきたとのことで、必要な課にいただきました。普段は水道水を電気ポットにいれますが、ペットボトルの水を沸かして淹れた珈琲は何だかいつもより美味しい気分でした。
    そんな取組みが、特別のことではなしに、一軒一軒のお宅で行われていけるような一声運動が地域の中であるといいですよね。

  2. s.m より:

    先生のお話をきっかけに、忘れかけていたことが次々と思い出されます。

    津波の後、私の地域は辛うじて家が10軒余り残っていました。でも、その周囲は道路には大きな段差や陥没があり、津波による瓦礫だらけで人が歩くのも大変な状況で陸の孤島のようでした。
    そのような状況でも、家が流出してしまった親戚を受け入れ、どの家も大人数の共同生活を始めることになりました。
    避難して来た人達は体ひとつで逃げて来ていたので、高齢者は特に毎日の薬が無いことに不安を訴えていました。
    その後、私が一番近くの避難所へ情報収集に行った時、子供達がお世話になった小学校の養護教諭に再会できたので薬の相談をしてみると手配してくれるとのこと、急いで戻って一軒ずつ御用聞きに回り、住所、氏名、何の薬かをメモして養護教諭にお願いしました。「いつとは分からないので時々来てみて」ということで、何日か後にみなさんにお届け出来たということがありました。

    あの頃は、私に出来ることを見つけては行うという積み重ねの毎日でした。

    私は自分の事しかわかりませんが、其々の地域なりのご苦労が有ったことと思います。
    みなさんのところではどの様なご苦労が有りましたか。

  3. スマイル より:

    いくこさんもおっしゃっているように、回数や順番などあまり考慮しないで、思いつくことを思いつく限り書いていただきたいです。いつか、これはまとめて本にしていただきたいと思うので、内容の整理はその時でかまわないと思います。本間先生が経験なさった事、そこから学ばれたこと、導き出した課題や対策すべてがこれから先の何よりの災害への備えです。そして、備えとしてだけでなく、なぜ先生のこのような経験が生まれたのか、その背景にあるご自身の想いや動機などが何よりの学びや励みとなります。
    どうぞよろしくお願いいたします。

  4. いくこ より:

    其の三、ありがとうございます。
    先生が思いつくままに書いて下さるのが良いと思っています、読む私も色々な所へ思いが飛んでいきます、普段考えていないことを想像しながら考える道案内をしていただいています。

    水は、生協の配達を利用しているので、5年保存水を買ってストックしています。水道水の汲み置きなど色々試しましたがうちではこれが一番楽です。価格も2リットル6本で千円ちょっとくらいで求めやすいと思います。食料はローリングストックを心がけていますが、米は玄米でストックしていて、これを味に配慮しながらいかに非常時に備えるか思案中です。

  5. やまぼうし より:

    おはようございます。
    3.11のあとずっと継続して、車の燃料が半分になったら満タンにするような習慣になっています。
    来週も楽しみにしています!

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