みやぎ東日本大震災津波伝承館(石巻市南浜)

6月6日に石巻市の石巻南浜津波復興祈念公園に整備された「みやぎ東日本大震災津波伝承館」が開館しました。今日(6月11日)の河北新報朝刊で“津波の脅威「伝わらず」”と、取り上げていました。

建物は、国が10億かけて建設し、県は展示物の整備や管理運営を担うといいます。新聞に掲載されていた展示費の3県比較を見て複雑な気持ちを抱いてしまいました。岩手県(陸前高田市)では7.7億円、福島県(双葉町)12億円に対し宮城県は4億円と見劣りするのです。金額の過多だけでものをいうつもりはないのですが、被災三県で最も被害の多かった宮城県が、岩手県の半分、福島県の3分の1というのには、次の備え、被災地が向き合う伝承への取り組み姿勢に差を感じてしまうのです。

みやぎ東日本大震災津波伝承館は、まだ見ていないのでコメントを控えますが、福島県双葉町の原子力災害伝承館は二度見ているので、その時に感じたことを書いて見ます。伝承館の規模は1,700㎡で、中央に大きなシアターホールがあり、様々な展示品と説明がありました。そこには、原子力発電所が整備された頃の小学生の作文があり、輝かしい未来をつくる原子力発電所と、子どもらしい言葉で書いてありました。同時の時勢がどの様なものであったかをとてもわかりやすく、そして極めて明確な形で警鐘を鳴らした展示だと感じました。

しかし、全部見終わって、何かが足りないのではないかと感じてしまいました。それは、原発事故を伝える内容の展示は多く説明も多彩でしたが、原発事故で長期間の彷徨(さまようこと)に関する記載がほとんどなかったのです。故郷を追われ未だに帰還できない住民がいること、避難生活が現在進行形であることが弱いのです。

この様な他県の伝承館を見て、宮城県においては、長期間の避難生活を強いられた現状等について説明があるのか心配している自分がいます。これまで、奥尻(北海道)の伝承館を見たときも、被害の大きさや津波のメカニズムなどのつては、丁寧に説明・展示されているのですが、被災後の辛く長い避難生活に関する説明が極めて乏しいのです。

津波の脅威や被災内容といった「自然災害」に関する記述・展示が多く、人々の暮らしに大変な不自由さを長期間強い、人と人との関わりに様々な課題を引き起こした「社会災害」ともいうべき内容の記述・展示が貧弱で、伝承としては極めて偏った片手落ちな感じがします。

津波の脅威の延長線には、「防潮堤」等の防災に関する課題だけが出て来ます。しかし、もう一つの視点、避難生活における近隣の助け合いや長い避難生活が引き起こす家庭内の離散やディアスポラ化(故郷に戻れず、避難先に定住する)等、いわば津波が引き起こした二次被災に関する視点も、しっかり記述すべきなのではないかと思うのです。

被災者の声にもっと寄り添った記述・展示を切に求めます。また、県民一人ひとりの震災に立ち向かった知恵を伝承したいです。津波研究者の山口弥一郎はこう言っています。「我々は津波直後に、惨害記録と哀話のみ綴っているべきではない。暗い話ではなく、根強く再興していく日本人の力に着目し、次の被害を少しでも軽減するために、細心の注意を怠らぬように導いてゆくのが我々のなすべきことと信じている。(山口1943)」

私は、東日本大震災で最も伝え残すべきことは、この日本人の力(知恵)なのではないかと思っています。別添の、宮城県民100の提言などに記録されたいる内容は、正にこれです。互いに支え合った、被災者が被災者を支えた生活相談支援員の市民的専門性等々、忘れがちな事柄のついてしっかり伝承することが、防災と両輪となる「減災」の中心的事柄なのではないでしょうか。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

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