原爆裁判

去る9月6日(金の)NHK連続テレビ小説「虎に翼」見ていて「原爆裁判」の判決文朗読に釘付けになりました。主文を後回しにして先に判決理由を読み上げる、当時としては異例の判決の判決言い渡しだと語らえているものです。読み上げられた判決理由は、60年前の史実に基づいた内容だとありました。

「原爆裁判」とは、昭和30年代に被爆者によって原爆投下の違法性が初めて法廷で争われた国家賠償訴訟で、広島や長崎で被爆した人たちが日本政府の責任を追及した裁判です。非常に重要な裁判だったにもかかわらず、私達は殆ど忘れられた裁判です。

1945(昭和20)年8月に広島と長崎に投下された原子爆弾の被害者5人が日本政府に賠償を求めて、1955(昭和30)年4月に提訴し、1963(昭和38)年12月に判決が言い渡されています。昭和38年に起きた出来事としては、黒部ダム完成、三池炭鉱爆発事故、ケネディ大統領暗殺事件、日本初の原子力発電所、東海発電所稼働等があります。また、福祉六法に一つ老人福祉法が公布された年でもあります。この翌年には東京オリンピックが開催されています。

1963(昭和38)年12月の東京地裁判決まで、8年余りに及んだ実際の原爆裁判は被害者5人が日本政府に賠償を求めた訴訟は、賠償請求こそ退けられましたが、民事裁判ながらも核兵器の非人道性を指弾し、国際法違反と初めて明言した異例の判決はそのまま確定して国内外に反響をもたらしたのです。

1963(昭和38)年12月7日(土曜日)東京地方裁判所第十一号法廷の後に「原爆裁判」と呼ばれる国家賠償訴訟の判決理由です。

「当時、広島市には、およそ33万人の一般市民が、長崎市には、およそ27万人の一般市民が住居を構えており、原子爆弾の投下が、仮に軍事目標のみをその攻撃対象としていたとしても、その破壊力から、無差別爆撃であることは明白であり、当時の国際法から見て、違法な戦闘行為である。では、損害を受けた個人が、国際法上、もしくは国内法上において、損害賠償請求権を有するであろうか。残念ながら、個人に国際法上の主体性が認められず、その権利が存在するとする根拠はない。人類始まって以来の、大規模かつ強力な破壊力を持つ原子爆弾の投下によって、被害を受けた国民に対して、心から同情の念を抱かない者はないであろう。戦争を廃止、もしくは最小限に制限し、それによる惨禍を最小限にとどめることは、人類共通の希望である。不幸にして戦争が発生した場合、被害を少なくし、国民を保護する必要があることは言うまでもない。国家は、自らの権限と自らの責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き、傷害を負わせ、不安な生活に追い込んだのである。原爆被害の甚大なことは、一般災害の比ではない。被告がこれに鑑み、十分な救済策をとるべきことは、多言を要しないであろう。しかしながらそれは、もはや裁判所の職責ではなく、立法府である国会、および行政府である内閣において、果たさなければならない職責である。それでこそ、訴訟当事者だけでなく、原爆被害者全般に対する救済策を講ずることができるのであって、そこに立法、および立法に基づく行政の存在理由がある。終戦後十数年を経て、高度の経済成長を遂げた我が国において、国家財政上、これが不可能であるとは到底考えられない。我々は本訴訟を見るにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである。」

「主文。原告らの請求を棄却する」。

この判決から5年後、日本国では1968(昭和43)年に原爆特別措置法、1995(平成7)年には被爆者援護法が施行されています。国際社会においても、核兵器の使用・威嚇は「一般的に国際法違反」とする国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見が1996(平成8)年に出されています。その流れが2017(平成29)年の核兵器禁止条約制定につながっています。中国新聞「社説」(2024/09/07)に一部引用

2017(平成29)年7月7日に国連会議で採択された「核兵器の禁止に関する条約」(以下「核兵器禁止条約」という。)は、90日経過後の2018(平成30)1月22日についに発効しました。しかしながら、核保有国はこの条約に署名しておらず、今後も同条約に加盟する見込みも乏しいとされています。

我が国も、この条約の目指す核兵器廃絶という目標を共有するとしつつも、既存の核保有国の核抑止力による均衡の保持を支持し、特に日米同盟の下で米国の抑止力を維持することが重要であるとの認識から、この条約には加盟していません。そして東日本大震災以降、止まっている原子力発電所の再開を急いでいます。

これが唯一の被爆国、日本の現状です。この現実をどのように受け止めるかは、皆様一人一人それぞれの判断です。今、私達が出来る最低限のことは、こうした現実を直視し、自らの判断力を高めることにあるように思っています。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

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