能登半島地震(仮設住宅遅れ批判への反論)

災害が起きたときには、避難所及び仮設住宅そして恒久住宅となる災害公営住宅の迅速な整備が取り上げられることが多いです。13年前の東日本大震災の時を思い出しても、そして、今、現在進行形の能登半島地震でも、様々な識者が現状を分析し提案/批判しています。

これらの報道を見聞きする度に感じることがあるので、このことについて触れてみたいと考えます。

能登半島地震に関する報道では、「仮設住宅建設の遅れ」等と言った新聞報道を良く目にします。災害発生から5ヶ月も過ぎて6割に満たない整備状況で、壊れた住宅と避難所を生活の拠点とした5,000人がいまだに不自由な避難生活を強いられている現状があります。

こうした現状は、行政も十分承知した上で応急仮設住宅の整備を急いでいます。しかし、不自由な生活を強いられている住民及び支援団体並びに学者や行政経験者からは、「遅れている」「急げいそげ!」の言葉だけが声高に発せられています。

住宅整備の当事者である被災地石川県では、応急仮設住宅の整備を3タイプに分けて進めていると言います。「従来型プレハブ住宅」と今回初めて取り組んでいる「まちづくり型」及び「ふるさと回帰型」の3タイプで、遅れが顕著なのは「まちづくり型」と「ふるさと回帰型」です。

従来型のプレハブ住宅型の応急仮設住宅は、これまでもよく見た仮設住宅で東日本大震災は全てがこのタイプです。基礎は松杭を打ち込み、その上に工場生産のパネルを組み立てて整備します。この為、工期は短く、建設用地が決まれば直ぐに建てられます。

そして今回の能登半島地震で石川県は、新たな仮設住宅タイプでの整備も進めています。木造の仮設住宅で市街地に長屋型で整備する「まちづくり型」の仮設住宅です。この住宅は、東日本大震災において福島県相馬市で整備した前例があります。それは、国の制度ではなく別の資金を元にして整備しています。ミニキッチン付きの個室に皆さんが共同で炊事できる広い台所と居間スペースが設けられています。温泉の湯治場をイメージして頂ければ近いと思います。一人暮らしの高齢者等が多いときは、互いの支え合いが自然と出来るので、安心して暮らせる仮設住宅だと思います。阪神淡路大震災の際に、宮城県から兵庫県に提供した住宅もこの例に属します。この時、宮城県から提供した「長屋型住宅」は、現在でも使われており、多くの一人暮らしの高齢者がLSAのわずかなサポートを受けながら住み慣れた「我が家」で暮らしています。

可能なら河北新報記事2024-5-4「仮設住宅建設進まず」「石川県にスピード感欠如」をご一読下さい。

石川県輪島市

東日本大震災の際は、南三陸町に対して、南三陸町の一人暮らし高齢者の多い状況及び介護保険財政が厳しい状況等から、宮城県が兵庫県に提供した事例及び相馬市の事例等を下にして、私しが実際に現地に出向いて作成した資料を下に「長屋型応急仮設住宅」の提案をました。結論から言えば町(実質県)はそれを受け入れず「従来型プレハブ住宅」のみの整備を進めました。理由は、お盆前までに被災者全員を仮設住宅で暮らせるように、とにかく急いで整備を進めたからです。これは知事の指示で強力に進めています。

新たな仮設住宅タイプ「ふるさと回帰型」は、集落の空き地に1戸建てで整備するものです。災害救助法は。入居期間が原則2年と定められています。石川県は、集落に残っている高齢者に配慮して、長年暮らしてきた集落での生活が継続できるよう、仮設住宅での使用期間が過ぎたら、その住宅を払い下げて、自宅として住み続けられる様に、建築基準法を満たす基礎工事や景観に配慮した様々な仕様を取り入れた整備をしています。南三陸町にいるときは、同様の趣旨で、出来るだけ「木造戸建て」の整備を提案しています。理由は全く同じです。しかし、南三陸町のみならず、沿岸部被災地には、これまでの景観にはなかった中層・高層マンションのような災害公営住宅が多数整備されています。

石川県は、県民の現状を下にして、出来るだけ地元を離れず、従来の近所付き合いを保てるように、応急仮設住宅から一般住宅への移行を住む場所を変えずに進むように考えて提案しているのです。この為に、たとえ時間が2~3ヶ月多くなったとしても、長い目で見たら、こちらの方が県民の安心安全の確保になると信じて進めていると思います。

私は、大賛成です。わずか2~3ヶ月多く時間がかかったとしても、其の後の10年を越える時間の安心安全を担保できます。このような考えを下にした行政判断には、大いに共感します。多くの識者、その多くが建築関係者に多いように思うのですが、「遅い、工期を短縮するもっと別のやり方があるはず」等々、とにかく早く早くと行政を突き上げます。社会学の視点から、こうした論調を見聞きする度に、住宅整備に社会学者が加わる必要性を強く感じます。私自身の体験からしても、多くの場合、建築サイドの意向が強く反映し、その後の長い生活環境を意識した整備に向ける意識が少々弱いように感じます。

集会所一つ取っても造るだけではなく、何処に造るかを意識する必要があります。更に付け加えれば、其の場所に生活を支える仕組みを加えるだけで、高齢者一人暮らしであっても、長く地域社会で暮らせるのです。施設等への移行を出来るだけ先延ばし出来れば、本人だけではなく、社会的コストの低減にも繋がるのです。南三陸町の災害公営住宅の併設されている集会所にはLSA(生活をサポートする職員)の詰め所が有ります。この方々が、一人暮らしの安全安心や緊急時の対応を行っています。

3ヶ月の我慢と10年20年の我慢。どちらを選ぶのかは、行政だけではなく住民にも大きな判断を求めます。私たちは、少し長い視点や共に暮らす地域社会を意識する視点を持って、物事を判断することが必要だと感じます。その為にも、平時の他者との関わりの機会を身近な日常の中でつくる必要があるように思います。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

能登半島地震(仮設住宅遅れ批判への反論)” に対して3件のコメントがあります。

  1. 鈴虫 より:

    仮設住宅の建設にスピード感が無いことはニュースで取り上げられていて、私も「本当にその通りだなぁ」とヤキモキしていました。
    それは大きな課題「長い目で見た安心安全の確保」がクリア出来ずに建設が進まないのだという事はあまり報道されていなかったように思います。
    地元では様々な場面で議論されて来たのだと思いますが、それでもまだスッキリと皆が同じ方向を目指して進んでいるとは言い難いように見えます。
    「3か月の我慢と10年20年の我慢。どちらを選ぶのかは、行政だけではなく住民にも大きな判断を求めます」これは大事な判断です。
    でも、先の不安と毎日の不自由さに喘ぐ住民には何度でも根気よく説いてあげる必要があるはずです。
    先生がいつか講義でお話くださった「説得より納得」が今こそ必要だと感じます。
    一人ひとりが納得すればこそ現状を耐え抜く事が出来るのでしょう。

    そして今朝「輪島市の応急仮設住宅で70代の独居女性が孤独死」と報道されていました。保健師が定期的に訪問していたと言いますが、どう考えても人手が足りるはずが無い。第一発見者は電話に出ないのを心配して訪ねた息子さんだったということは、隣近所とのお互い様の関係性も築けていなかったようです。なんて痛ましい、悲し過ぎる現実です。
    南三陸町には住民達がコツコツと全身全霊で築いた見守りのシステムが有るのに!
    何故、頼って下さらないのか!
    と涙が出ました。
    どうか、これ以上の悲しみを重ねないよう、防げることは絶対に防ぐという強い気持ちで、今からでも他所の支援体制を真似ることから出直していただきたいと行政にはお願いしたいです。

    今日あらためて、被災地の皆さんに心からの安寧が取り戻せますようにと祈っています、応援しています。

  2. スマイル より:

    今回の本間先生の記事はとても勉強になりました。物事を正しく判断する、ということはなんと難しいことか、とも思いました。私はまだ仮設住宅について自分なり意見を持っていないということを強く感じています。ですから、なおさら今回の記事は私の視野を広げていただいたと感謝しています。

    東日本大震災の被災の広大さ甚大さは他と比べようがなく、では宮城県はどうすべきだったのかということはやはりまだわかりません。でも、石川県が3タイプを考えてくださっているのだとしたら、それはなんと優しく思いやりある視点だろうと思います。誰でも、震災前の暮らしに戻りたいと願っています。その暮らしに少しでも近づけるような、同じではなくても新しい暮らしも悪くないと思えるような、そんな復興となりますよう心から願います。

    わかりやすくお伝えいただき、ありがとうございました。

  3. ハチドリ より:

    本間先生、とてもよくわかりました。
    従来のプレハブ仮設住宅に、どの地区の人をどんな順番で入居させるのかの議論は聞いたことがありますが、仮設住宅には、そのような考え方の建物があるのだと初めて知りました。

    属性や地域社会、今後の長い目で見た仮設住宅つくりはとても大切だと思います。
    しかし、そのことがもしも住民にちゃんと伝わっていなく、「何しているんだ!遅い!」と批判されているのであればとても残念です。もしかして、被災してから『どのような型式にしたらいいのか』と考えたのでしょうか。さらに今はどこも建築資材の不足、高騰になっているようです。それでも、先生が書いておられたように『3ヶ月の我慢と10年20年の我慢。どちらを選ぶのかは、行政だけではなく住民にも大きな判断を求めます』は、ほんとうにそうだなと思いました。

    今日の記事を読み、被災直後の対応や避難所運営のこと等はもちろん、仮設住宅や復興住宅についても『減災教育』の中で、平時に住民も行政も一緒に何パターンか考え、話合っておくことが大切なのだろうと強く思いました。

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