意思しないままに取り込まれている「ナッジ理論」
これまでも、2022/08/04にUpした、地球環境や、人、社会に対して配慮されたものを購入・消費したり、またそのような商品のことを指すエシカル(倫理的)消費等をご紹介してきましたが、今回も面白い理論を見つけたのでご紹介します。皆さん、きっとしっかり誘導されていると思います。私は、ほぼ丸丸誘導されていました。それは「ナッジ理論」です。
ナッジ(nudge)とは、相手に選択の自由を残しつつも、より良い選択を気分良く選べるように促し手助けをするための方法論です。人間の意思決定の癖を利用したもので、相手に命令や強制することなく、お金をかけずに実行することができます。現在、日常生活や教育、医療だけでなくビジネスにも応用され注目されています。
ナッジ(nudge)の英語としての意味は、「注意を引くために肘で軽く突く」です。ナッジ理論は、ノーベル賞を受賞した行動経済学の権威、リチャード・セイラー教授が2008(平成20)年に提唱した概念で、比較的新しい考えですが、すでに幅広い分野に活用されています。2017(平成29)年に、セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことで、ナッジ理論が一層注目されるようになりました。
経済学と行動経済学。言葉が似通っているので違いを整理してみます。伝統的な経済学では、計算能力や認知能力が非常に高く、自制心が強く、常に自己利益の最大化のために合理的な行動をする「合理的経済人(ホモ・エコノミカス)」を前提としています。ところが、現実はそういう人ばかりではありません。そこで行動経済学は、心理学的要素を数理的にモデル化し、現実に合うように経済学の適用範囲を広げようとしています。ナッジを使うと、相手の意思決定を合理的なものに近づけることができるとされています。
経済学は、人は合理的な選択をして常に自分の利益を最大化するための選択をするという考えに基づいています。
合理的な選択とは、モノ・サービスを購入するときに、その人が認める価値と支払うべき対価を照らし合わせ、いくつかの選択肢から一番良いものを選ぶということです。ところが、現実ではそのような合理的選択をいつも行なっているわけではありません。多くの人は「衝動買い」などのご経験があると思います。限られた情報量と時間の中で、直感的に選択をしているケースが意外に多いのです。
そこで登場するのが行動経済学です。行動経済学では、経済学では説明がつかない非合理的な選択を心理学の要素を加えて解明を試みます。そして、行動経済学によって見つけだされた「非合理的な意思決定を合理的なものへと導こうとする」のがナッジ理論なのです。
ナッジ理論を活用した主な活用方法として、以下の7つが挙げられます。
①デフォルト 一番よく活用されているのがデフォルトです。デフォルトは、IT関係でもよく使われます。これは、初期値として選択されている状態にしておくという意味です。例えば、オンラインショッピングで商品を購入した際、決済ページの下のところに「当ショップからのおトク情報のメールを受け取りますか?」という質問で「はい」のボックスにすでにチェックが入っているのを見たことがあると思います。「はい」か「いいえ」のどちらかを選ぶという手間をはじめから省略してあげているのです。あらかじめ選んでほしい方にチェックをしておくだけで、同意される確率が格段に上がります。
②仕掛け 仕掛けとは、ついついやってしまいたくなるような、ひと工夫を加えることです。男子トイレの便器に描かれたハエの絵はその一例です。ハエの絵に狙いを定めることでトイレをきれいに使ってもらうことを狙っています。また、チラシスタンド(地下鉄駅などでよく見るパンフがまとめて並んでいる台)の上に鏡を設置することで、鏡がない時と比較して、チラシを手に取った枚数が2.5倍に増えたという報告があります。
③フレーミング効果 同じ内容でも伝え方や表現方法が違うと、印象が大きく異なることをフレーミング効果と言います。有名なフレーズで、コップに「半分しか水が入っていない」と「半分も水が入っている」というのがあります。後者の方がよりポジティブな印象を与えています。よく見る例では、栄養ドリンクの製品情報「◯◯◯、1000mg配合!」と「◯◯◯、1g配合!」では、言っていることは同じことですが、前者の方がたくさん入って効き目が良さそうに感じます。ピザのデリバリーチェーンの「2枚目無料!」というチラシもフレーミング効果を狙ったものです。「ピザ半額!」よりも無料というフレーズのインパクトが大きいからです。私は、確実に誘導されている(汗)
④同調効果 ラーメン屋さんが2軒あって、一方はお客さんがほとんどいなくて、もう片方には行列ができていたとします。情報がなくても、行列のある方に並んででも入りたくなる人は多いです。これが同調効果です。人は自分の意見や行動が周りと同じだと安心します。水着メーカーがまだ肌寒い春先に「今年はこの色が流行します!」と、新作発表するのも同調効果を狙ってのものです。実際には、流行は着る人が作るものですから春先にメーカーが発表するのは予測にすぎません。でも、「流行に後れたくない」という思いがはたらき、メーカーの勧める色の水着を選ぶ人が多くなります。その一方で、「他人と被りたくない」という人もいます。「他人とは違うものが欲しい」という心理的な動きのことをスノッブ効果といいます。同調効果とスノッブ効果は、真逆のようにみえますが、実は他人のことを意識しているという点では同じです。スノッブ効果を補強するやり方としては、「限定品」といった希少性を打ち出すと効果的です。
⑤インセンティブ インセンティブは、顧客が受け取る報酬のことです。金銭的な報酬も含みますが、それ以外もあります。環境に配慮したものを選ぶことで得られる道徳的な報酬もそのひとつです。同じ報酬を受けとれる場合でも、あとで受け取る報酬よりも、先に渡された方が失う痛みを強く感じます。無条件で100万円もらえる場合とじゃんけんで勝てば200万円、負けると0円の場合のどちらを選ぶかと聞くと、多くの人が無条件の100万円を選びます。これは、100万円を無条件でもらえると思った瞬間から100万円を失いたくないと思う気持ちが発生するからと言われています。買い物の際に付与される期間限定ポイントは、金額に換算するとそれほど大きくないにもかかわらず、使わないともったいないという意識が働き、リピート購入へとつながりやすくなります。通販では、ついついこれでポチしているな~。
⑤ラベリング効果 イクメン、山ガール、カープ女子、おひとりさま、女子会などなど。これらはラベリング効果の一例です。ラベリングとは、先にこちらから決めつけてしまうことで、その人に望ましい行動を取ってもらうように仕向けることを言います。例えば、「イクメン」は育児に積極的に参加する父親のことです。少子化対策として男性の子育て参加を促すために浸透が図られました。その効果として、育児休業取得率が向上し「イクメン」が社会的にも受け入れられるようになりました。トイレで「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」という貼り紙を見たことがある人も多いと思いますが、これもラベリング効果を期待したものです。行動は強制していなくても「あなたは、○○ですね」と言われると、心理的には反する行動を取りづらくなります。ラベリングは、相手を「決めつける」という点で、ナッジの中では強制力が強めで取り扱いには注意が必要と言われています。たとえば、血液型の性格診断もラベリング効果と言われていますが、A型の人が神経質と言われても、神経質でないと思っているA型の人からは反感を持たれかねません。
⑦アンカリング効果 アンカリングのアンカーとは、船の錨のことをいいます。船が錨を下ろしたかのように、人の心に深く印象を残すことをアンカリング効果と言います。アンカリング効果は価格設定でよく用いられています。テレビショッピングなどで、「通常価格1万円のところ、今回は特別価格5,000円にさせていただきます!」とか、「さらに、もう1つお付けします!」というように、お得感が増していくように商品紹介をしているのをよく見ます。これは、1万円という価格が印象に残ることによって、後に提示された価格に対するお得感が増すことを期待しています。アンカリング効果の応用例として、自社のラインナップの中にハイスペックの超高価品を加えることで標準グレード品をよりリーズナブルに見せるという手段も結構使われています。
こうしてナッジ理論をみると、私たちの生活場面には、とても多くこの理論を使っていることが分かります。私は、全ての項目で心当たりが有り、全て無意識に誘導されていました。一呼吸おいて物事を選択・決定する必要がありますね。私たちは様々な場面で、「自己選択・自己決定」を促し、そのことをもって「自立(自律)」と言っています。しかし、この自己選択・自己決定がナッジ理論を下にして誘導されているリスクがあることを意識して対応が必要だと思いました。目先の「判断」を鵜呑みにするのではなく、なぜその判断に至ったのかをしっかり見て対応する必要があると改めて意を強くしました。
出典:株式会社ピクルス
実に面白い!と思いました。