原発漂流-福島第一原発事故から10年-を読んでいます

「原発事故の虚実を東北からあぶり出した」(国会事故調査委員長黒川清)と帯に書かれた『原発漂流』(2021.07.21河北新報社編集局編)を読んでいます。2020(令和2)年9月28日から2021(令和3)年4月9日迄、河北新聞朝刊に掲載した記事を基にして再編集した書籍です。河北新聞に掲載されていたので、新聞販売店に電話して届けて頂きました。

以前、『死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五00日』(門田隆将、2012、PHP研究所)を読みました。この本は、映画FUKUSHIMA50の原作になった書籍です。ここでは、東日本を襲った地震と巨大津波に引き起こされた福島第一原発事故の当時の様子が詳細に書かれています。全電源喪失、注水不能、放射線量増加、水素爆発等々、絶望的な状況下で、原子炉が制御不能に陥りそうな中、これに対応する為に多くの技術者が現場に踏みとどまっています。

時々刻々と変わる状況と当時の関係者の発言を再現し、事故当時に第一原発では何が起きていたのかを再現しています。

ここでは、一般には余り知られていない事実、「青森を除く東北全域と関東全部が避難対象(人口5千万人)と試算されていた」ことや、これが回避されたのは、高度な技術力等ではなく、度重なる余震でたまたまボルトが緩んだことで原子炉の爆発が回避されたという事実が記載されています(259頁)。

津波被害の被災者支援で真っ最中の私たちも避難の対象だったかも知れないのです。故郷を追われ、帰還をあきらめディアスポラ化していく福島県民と同じ道を歩んでいたかも知れないのです。

今回読んでいる本『原発漂流』は、原発事故を取り巻く国、事業者(東京電力)、原発の安全な運用を監視・指導する機関等、原子力政策に関わる人々や制度について、当時どの様に振る舞い機能したのかしなかったのかについて、新聞記者の鋭い取材をとおして記述されています。直接的な事故の原因に迫るのではなく、事故に至った背景を丹念に取材することで、事故が避けられなかったのか、事故の教訓は生かされているのか等々に迫っています。

これらの本を読んでいると、知らなかったことがとても多いように感じます。でも、正確には、「知らなかった」のではなく「気にとめなかった」というのが正しいかも知れません。マスコミ自体も様々な理由(圧力とまでは言わないが)で取材で知ったことの全部を書いているとは言いかねるような感じもします。なので、私たちが、しっかりと読み解き考える必要がありますね。正確な情報!出発はここからだと改めて感じています。

「原発推進、反対の双方が妥協や譲歩を否定せず、真剣に合意点を見いだそうとする努力。それを絵空事と思う限り、双方は再び後退と失敗を繰り返すだろう」と結ばれています。

有権者であり電力消費者である私たちが針路の舵を取る。漕ぎ出す現在はたそがれ時か、夜明け前か。私たちの熟慮と覚悟が、それを決める(189頁)。この言葉、しっかり受け止め考えねば!

最近、リスクコミュニケーション(「リスコミ」)という言葉を教えて頂いた。リスコミは、あるリスクについて関係者間(利害関係者)で、正しい情報を伝達し、対話や意見交換を通じて意思の疎通を図り、それによってリスクに関する相互理解を深め、信頼関係を構築していく。そして、最終的には、個々人が「合理的判断」が出来るようになることを目的としています。

リスコミとは、一方的な情報の発信や受信だけではなく、常に共に考える双方向の意思疎通が大切。その為の第一歩は、相手の気持ちを理解しようとすることです。

こうしたことが出来るようになる為には、私たちは日常の些細な出来事をみんなで考える機会を身近に設け、互いの言葉に耳を傾ける訓練が必要なのではないかと思います。

前回読んだ本
今回読んでいる本

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

原発漂流-福島第一原発事故から10年-を読んでいます” に対して10件のコメントがあります。

  1. S.M より:

    『死の淵を見た男』を読みました。
    当時、福島の原発事故で何としても事態を収束させようと命懸けで頑張ってくださった大勢の技術者の皆さんの真実を、今さらながら知る事が出来ました。
    あまりにも過酷な現場の様子は、10年の時を経ても背筋の凍りつきそうな恐怖を覚えます。
    この尊い闘いのおかげで、今の日本が、そして私達の命が有ると肝にめいじます。
    今後の原子力発電を考えるとき、同じ過ちを決して繰り返すことのないように、福島の教訓を土台に更に最悪の事態に備えることを国をあげて練り上げなくてはならないと感じています。

    とても大事な勉強になりました、有難う御座います。

    1. welfare0622 より:

      コメント有り難うございます。
      「この尊い闘いのおかげで、今の日本が、そして私達の命が有る」同感です!

      私たちは、この事実を知らなすぎます。

      こうした事実を知った上で、今後、原発とどの様に向き合うのかを考えて行くことが、尊い犠牲者や命をかけて事故と向き合った方々に報いることが出来る振る舞いなのではないかと思います。

      こうした姿勢は、この原発事故に限りません。地域社会で起きる様々な課題に対しても
      同様に求められます。

      正確な情報を下にしてみんなで考える。そんな地域社会は、きっと危機に強い社会になると思います。コメント、有り難うございました。

  2. 大谷みち子 より:

    おはようございます。
    さすが、たくさん読まれていますね。
    リスクコミニュケーションって究極の「大人なやりとり」なんじゃないかと感じました。
    日常の生活でも、このような考え、やりとりでやっていけたら・・と思いますが、つい自分の価値観で想いや欲を前面に出してしまうことも多いかと。リスコミ、少しずつでも身に付けていけたらと思います。
    ありがとうございました。

    1. welfare0622 より:

      「大人なやりとり」、深いですね。
      あらゆる場面で「大人の振るまい」「大人の責任」を意識することが必要だと感じているので、リスコミュニケーションにもこのことは通じるのだと教えて頂きました。
      有り難うございます。

      1. S.M より:

        大谷様、飛び入り参加です。

        日常では、大事なことほど真面目に話し合うこと(人)が煙たがられがちに思います。
        それでも、後回しにせず時にはしっかりと思いを伝え合い、情報を共有したり、自分とは違う意見に耳を傾ける努力をすることが大切なのですね。
        私はなかなか出来ていないので心掛けてみます。

        このような会話に交ぜて頂いて、今日はいい休日になりそうです。
        ありがとうございます。

        1. 大谷みち子 より:

          S.Mさま
          飛び入り参加、ありがとうございます。リスクコミニュケーションって言葉は聞いたことも使ったこともなかったけど、こうやってやりとりが出来て嬉しいです。
          私もS.Mさんと同じです。自分とは違う意見にももっと耳を傾け、なぜそんな風に思うのだろうと思いを馳せられるようになりたいです。
          これからもよろしくお願いいたします。

          1. S.M より:

            大谷さま
            わぁ! お返事ありがとうございます。
            まるで、中学生の時に初めて文通相手から返事が来たみたいな嬉しさです。
            お顔も知らない方との交信はドキハラですね。
            こちらこそよろしくお願いいたします(^^)

            さて、大人としてどのように振る舞うのが良いか、常々反省の方が多い私です。
            でも、今回のように時々ハッと気づかせて頂いたりしながら、3歩進んで2歩下がるくらいで行こうかと思います。

            ゆるいですかね笑

  3. S.M より:

    今朝の書き込みを読んで、改めて原発について何も知らなかったでは済まないことを痛感しています。自分なりの意見が持てるよう、我が事として勉強してみようと思います。
    先ずは此処に紹介された本の中から一冊読んでみます。
    いつも勉強の種をありがとうございます。

    追伸、 
    昨日のコメントに出てきた「合理的判断」が今、つながりました。

    1. welfare0622 より:

      お読みになるのであれば、
      門田隆将、2012『死の淵を見た男-吉田昌郎と福島原発の五〇〇日』PHP.
      をお勧めします。
      きっと、本当の危機感を知る事が出来ます。

      1. S.M より:

        ありがとうございます。
        思い立ったが吉日、早速入手します。

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