夫婦や恋人たちに一時の安らぎを

ユニットケアに関する勉強会を南三陸町内の特別養護老人ホームで行いました。終わってから、ロビーで珈琲を頂きながら外を眺めていました。志津川湾に面した全面ガラスからの眺めは格別でした。広々とした海がみわたせ、遠くを見ると山々が目に入る内陸育ちの私には、何処までも続く海の開放感はとても新鮮に映りました。

きっと、ここから見る夕日もきれいだろうなって思いました。職員の方に伺ったら、「とってもきれいですよ」って即答でした。だから海側にベランダや椅子がならべられているんだと改めて気付きました。

被災者支援で毎朝ミーティングが行われ、長引く避難生活やパーソナルスペースが狭くなった応急仮設住宅の日常は、必要以上に家族をギスギスさせ苛立たせ、身体的・精神的・社会的混乱を招いている状況の報告が多くなっている様に感じていました。そんな時に出会ったのが、この素敵な空間だったのです。

季節は12月。これはクリスマスしかないと思い、施設の職員さんに相談したのです。「このロビーで夕日を見ながらワインを楽しむ集いをしませんか」と。渋い顔をされるかと思いきや「いいですね~!」の一言。さすが、ユニットケアの勉強をしたいという職員さんです。即、簡単な役割分担をしました。施設の職員さんは、上司の了解を取り付けることと、他職員の協力を取り付けること。私は、具体的な「ワインの集い」の内容や講師等々の手配を考える、です。

帰りながら、思い浮かべていたのです。南三陸町にはCSR(企業の社会貢献活動)としてANA(全日本空輸)が入ってボランティア活動をしていました。その中には、様々な職種の方々が入っていましたので、きっとCA(客室乗務員)もいたはずだと思いました。CAならきっとワインの扱いにも慣れているだろうと考え、CAによるワイン教室兼ワインを楽しむ夕べのお世話をもらおうと設計しました。

翌日、南三陸町社協が運営している災害ボランティアセンターに出向き、企画の概要を説明して協力を要請しました。運良く、県外から南三陸町に来てボランティア活動を手伝っていた方が、様々なチャンネルを持っていたようで「当たってみる」との返事を頂けました。さらに、おんぶにだっことの批判を承知で、ワインを楽しむための講義、ワインの楽しむ集いで使用するワイン、グラス等々、可能な範囲で構わないので支援してもらいたいと具体的にお願いしました。

そんなに長い期間ではなかったと思います。「全て了解、準備します」との返事でした。なんとも有り難い支援でした。これで、必要な人、物は一通り揃うので、後は集いの持ち方や演出だけです。この点については、施設の方と相談しながら積み重ねて行きました。その過程で、BGMも必要だろうから、CDではなく、生演奏でやろうと、元ピアノの先生をしていた生活支援員さんに応援を頼みました。これがまた最高でした。信子さん有り難うね!

事業の周知は、生活支援員さんは対象になりそうな方々は把握しているので、高齢者ではなく、若い人達を中心にある程度目星を付けて誘って頂きました。当日、何組来たのか数字は覚えていないのですが、若いご夫婦や恋人同士等々に参加して頂きました。

前半は、研修室でワインの基本的な知識や扱い方そして楽しみ方についてCAさんにお話をして頂きました。後半は、場所を海の見えるロビーに移し、証明も落としてロウソクの明かりだけの空間にして頂きました。BGMは信子さんの生演奏です。

ほんの一時だったかも知れませんが、美味しいワインを味わいながらゆっくり流れる時間に身をあずけて頂きました。困り毎を支える被災者支援だけではない、夫婦の愛情を深める支援、恋人同士が愛を確かめ合える支援、これも有りなのではないかと思うのです。このような細やかな時間を持てることで、あの辛く長い避難生活を乗り越えられる、そんな風に考えたのです。甘いと批判されるかも知れないのですが、そう思い実行しました。丁度、11年前(2011/12/19)の今日のことです。

CAさん達の素晴らしい接客は、外からみていてもとても素敵でした。CAさんの中には、ソムリエの資格を持っていた方もおり、自然な立ち振る舞いの中にも、しっかりした知識を下にした所作が見受けられました。

「ワインを楽しむ夕べの集い」は、どの様な成果をもたらすのかは考えていませんでした。とにかく、ほんの一時で良いから、本来の自分自身を、本来の夫婦の関わりを取り戻す機会になって頂きたい、それだけでした。

だいぶ経ってから聞いたのですが、その時、数あわせで即席の恋人達になって頂いた方が「結婚」して子宝にも恵まれたと聞きました。

ワインの勉強
ワイン教室(ラベルの読み方)
ワインを楽しむ夕べの集い始まる
用意された様々なキャンドル
BGMはピアノの先生=長生き坂音頭の作曲者

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

夫婦や恋人たちに一時の安らぎを” に対して9件のコメントがあります。

  1. 華日和 より:

    鈴虫さん、こんばんは

    あの頃、たくさんの学びの機会がありましたね。
    手元のことに精一杯で足元しか見えてなくて…
    ちょっと顔を上げて少し先のものを見るなんてできていなかったなぁって、思い起こしています。

    この企画も、わたしなどでは到底思いつきもしないことでした。
    本間先生の感性と生活支援員さんたちの機動力、そして支援してくださった方々のお力があってこそのものでした。

    本当にこうして一緒にあの頃のことを語り合えること、とても嬉しく思っています。

    1. 鈴虫 より:

      華日和さん

      ほんとうにたくさんの学びの日々でした。町の復興は、町中のみなさんと手を繋いだからこそ叶ったことなのだと思っています。

      この大切な経験を惜しみなくひとつずつ全国のみなさんに伝えていくことが、私達の使命だし全国の皆さまからご支援を頂いた者の責任だと思います。折に触れ一緒に伝えていきましょう。

      華日和さんと一緒なら、志しを持って続けられると思います。

      これからも手をつないでいきましょうね!宜しくお願いします。

      1. 華日和 より:

        鈴虫さん、ありがとうございます。

        こちらこそ、よろしくお願いいたします。

  2. 栗原市住民 より:

    クリスマスが近づくこの時期は、何だか特別な時間を過ごしたいと誰もが思う時期ですね。 今回ご紹介があった企業グループ会社に勤めていた事もあり、勉強会の様子を見て、若かりし現役時代の事を思い出しました。現在は社会福祉協議会の職員として従事しておりますが、接客業で積み上げた基本が活かされています。

    些細な 気配り、心配りは、少しの意識で目配りが出来るようになると思います。日常の暮らしの中で、ほんの少しだけでも、相手へ気配りを意識すると、きっと双方が心地よい和やかな空間になると思います。おもてなしは、特別な事でなく、小さな些細なことの積み重ねです。

    お客様へのサービスは双方が満足出来てこそ。それは身近な家族への振る舞いもですね。皆さま 特別なこの時期を少し意識した気配りで素敵な時間で過ごしましょうね。

  3. 華日和 より:

    もう11年も経ったのですね。10年ひと昔と言われますが、つい昨日のように思います。

    きっとクリスマス間近のこの時季になると、当時の「ワインを楽しむゆうべの集い」のことを思い起こしているためでしょうか・・・。あの当時、震災で多くのものを失くしてしまいました。それでも多くの支援とたくさんの方々からの応援、あたたかな心に触れ、多くのものを失くしたからこそ何でもできる❕と、みんなも心が前を向いていました。

    「ワインを楽しむゆうべの集い」の企画を通すまで、すんなりとはいかないこともあり、半ばゴリ押ししたところもありましたが、結果良ければすべて良し❕やわらか頭の上司とイベントを楽しんで関わってくれた仲間たちに感謝の気持ちでいっぱいでした。

    多くの支援をいただき、こんなにしていただいていいのかな・・・という思いもありましたが、その時には本間先生から「受援力」と「恩送り」ということを実体験を通して学ばせていただきました。とかく施設は近寄りがたい、敷居が高くて・・・などといった印象を持たれがちですが、「ワインを楽しむゆうべの集い」は、施設が「地域の縁側」的役割を担いたいという思いを持つきっかけとなりました。

    私はもうすぐこの施設から卒業する身でありますが、これから施設を育てていってくれる仲間たちに置き土産として語り継ぎたいと思います。

    また今回もきっかけを作っていただきありがとうございます。今夜はバカラのワイングラスで赤ワインでもいただきましょうか(*^-^*)

    1. 鈴虫 より:

      華日和さん

      あれから11年が経っただなんて、光陰矢の如しとは良く言ったものです。

      あの当時はまだ、多くの人が楽しみは傍に置いて日常生活を送ることに精一杯の時期だったと記憶しています。

      そんな時に地域の特別養護老人ホームを会場に『ワインを楽しむ夕べの集い』が開催されました。

      地元の方でなければ、なぜ特養でワイン?と思われることでしょうが、この施設からの海の眺めは、まるで海を独り占めしているかの様なロマンチックなもので、この景色ならではの企画と誰もが納得のいくシュチュエーションなのです。

      この一見奇抜な企画が地域の施設の全面協力のもと、ひと時の別世界を演出してくれたと翌朝のミーティングで全支援員に報告されました。

      その一方で、まだ私達は見ず知らずの沢山の人からご支援を受けている身なので「慎ましく暮らすべきだ」「楽しむことがはばかられる」と勝手に思い込み、がんじがらめになっていました。そのために、心に余裕が無くギスギスしていたように思います。

      この集いは、そんな思い込みを吹き飛ばし、楽しむことは悪じゃないと教えてくれた大切な企画だったのです。

      その企画を実現させるために華日和さんが先頭に立ち、施設との仲立ちをして下さったことを私は忘れていません。あれ以来ずっと、地域に開かれた関わりに本気で取り組んでくれたこの施設を、町の誇りであり宝物だと感じています。

      華日和さん、一緒にあの当時を懐かしむことが出来るなんて感慨深いですね。

      1. ハチドリ より:

        目を閉じてそっと想像してみました。

        震災の傷跡がまだまだ生々しく残るあの頃、非日常のひとときは、とてもとても大切な時間だったのではないでしょうか。

        それを特別養護老人ホームで開催してくださったことが、素敵だなと思います。そんな特養だったら、私もちょっとお召かししてお邪魔したくなったろうなと思います。また、やってほしいです。

        『地域に開かれた施設』う~ん、いいなぁ!

        華日和さんも書いてくださっていましたが、開催にこぎつけるまでいろんなことがあったのだろうと思います。でも、そこに関わった人や参加したみなさんに、どれだけの癒しや希望を感じさせてくれたことでしょう。それを思うと、様々なご苦労も良い思い出に変わるのかも知れません。

        ほんと、鈴虫さんが書かれたように、町の誇りであり、宝物ですね!

        1. 華日和 より:

          ハチドリさん、そのように感じていただけて嬉しく思いますが、まだまだ足りないことばかりでお恥ずかしい次第です。
          先にもコメントで書きましたが、この企画も栄養士の簡単レシピもわたしなどでは到底思いつきもしなかったでしょう。
          「地域に開かれた施設」という思いばかりで「施設」に閉ざされてきたのは職員であるわたしたちだったのだと気づかされた企画でした。
          たくさんの方たちとの協働のもと、貴重な経験をさせていただきました。
          その経験こそが何にも優る宝物だと思っています。
          素敵なコメントをいただき、ありがとうございます。

  4. いくこ より:

    「心の栄養」の支援だったのですね。
    とっても素敵な企画、支援を考える時に大切なことと思いました。
    日々がそうであるように改めて心に留めます。

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