老いとの向き合い

一般的に60代になると初老期うつ病を発症しやすいと言われています。これは50代から60代半ばの初老期に発症するうつ病で、何らかの「喪失体験」がきっかけになることが多いと説明されています。喪失体験とは、本人が大切なものを失ったと感じて「自分はもうダメだ」と思い詰めるような体験だといいます。思い通りに体が動かせなくなったとか、理想とする体形ではなくなったとかいう場合も、喪失体験となります。

60代で、それまで社会的にも活躍していたような男性は、年齢的にも体力的にも、これから歳を重ねだんだんと高齢者の仲間入りをしていく中で、どのように自分を高齢者として着地させていくのかが大きな課題になります。周りから「明るくて元気でタフ」、「頼りがいがある」、「いつまでも若い」というイメージで見られている人ほど、「老いてきた自分をなかなかみせられない」という葛藤や意識と加齢の現実(容姿、体力等々)のギャップが生じやすいといいます。年齢に関係なく、若さを保っている時代だからこそ、自分のイメージと現実のギャップに、想像以上に苦しんでいる人がたくさんいるようです。

老いの兆候があると、ものすごくショックを受けたり、それを自分で否定しようとしたりするようです。そして、『いっそのことここで命を絶って終わりにしたほうがいい』『老いていく自分を自分で認められない』と考えてしまうほど老いの受容は難しそうです。

それではどうしたらいいのか。エイジング(加齢)によって、体に痛みが出てきて動かしにくくなる。元気で明るくと思っていても、気分が上向かないこともある。肉体は衰え、気力もなくなって、記憶も低下するというのは、ある意味では自然の摂理。いつまでも若い時みたいに元気で明るくいられるわけではありません。難しいことですが、そういう現実を少しずつ受け入れ、老いていく自分も面白いんじゃないのと思えるようにしていくこと大切だと精神科医は説明しています。

「どんな国でも、どんな文化でも、どんな時代をとっても、男性の自殺率が女性よりたいがい高いようです。これは男性の方が、喪失体験に対して脆弱だからだといいます。

厚生労働省が2022年3月に公表した「令和3年中における自殺の状況」によると、昨年1年間に自殺した人は全国で2万1007人。これを年代別に見ると、50代が3618人と最も多く、60代は2637人、70代は3009人、80代以上は2214人だった。じつに、50代以上が1万1478人と、全体の半数以上を占めています。男女別では、男性は1万3939人、女性は7068人と、男性の自殺者数が女性の2倍近く多いのです。若い世代の自死が取り上げられることが多いのですが、この様に、年齢を重ねた人がとても多いのです。

ともに老いていく伴侶はどう対応したらいいのだろうか。元気で若いイメージのまま、ポキッと折れてしまう人もいるので、少しでも歳を感じさせるような行動とか、見た目を含めた兆候とか、足腰が弱くなるとかが出てきたら『一緒に老いるんだし、当然じゃないの』と受け止める。『まだまだできるはず』と励ますばかりではなくて、夫・妻と一緒に少しずつペースを緩めて生活していくくらいが良く、変化を楽しむ余裕が必要とのことです。

最近レジリエンス(resilience)という言葉を聞くことがあります。レジリエンスとは、外的な衝撃に、ぽきっと折れることなく、立ち直ることのできる「しなやかな強さ」のことです。レジリエンスの概念は、生態系の分野や心理学の分野で発展してきましたが、今日では、教育、子育て、防災、地域づくり、地球温暖化対策など、さまざまな分野で使われるようになっています。

私たちの社会は、高度に複雑化し何かと生きづらくなっています。そんな中にあるからこそ、たとえ困難な状況に陥ったとしても、ぽきっと折れることなく、立ち直ることのできる「しなやかな強さ」が必要です。老いの受容はなかなか難しい事ではありますが、他者との関わりや社会的役割等々を通して、現役時代とは異なる役割の場を見いだし、ゆっくりゆっくり老いと向き合う、そんな過ごし方が大切です。

こうしたことを可能にする為の「地域デビューの場」づくりは、高齢化社会における地域社会づくりの大きなテーマでもあると思っています。「しなやかな強さ」を促してくれる地域社会は、人に優しい穏やかな自己実現を支えてくれる、そんな社会のように思います。そして、そのような姿は、老いをネガティブがこととしてだけではなく、老いを「余裕やゆとり」として捉え「格好いい大人の姿」との受け止められることになるでしょう。このことは、若者の元気な活気ある姿とはまた違った、大人の成熟した活気という新たな概念を生むのではないかと考えます。私は、身近でこの様な姿を見ています。本当に「格好いい!」です。私も、あの様になりたいと思っています。あの雰囲気をどうすれば出せるのか、密かに観察して「まねぶ」を重ねているところです。

お気に入りのアンティーク珈琲カップ

参考:YahooニュースJAPAN:https://news.yahoo.co.jp/articles/6307cd6e6be0431db07eecc5b6f9910dd0aaf2e2?page=1(2022/05/24)

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

老いとの向き合い” に対して5件のコメントがあります。

  1. 阿部 優 より:

    こんにちは。日本における認知症の数は7~10人に1人となっていますが増加傾向です。
    正常な状態→軽度認知障害→認知症と進行していきますが、軽度の段階で治療ができれば回復可能です。認知症になってからでは回復しません。ならないことが大事。つまり、予防することです。
    予防方法は『食事』『運動』『交流』の3つです。地域交流の場があり、そこで交流ができるだけで予防となるのです。その場所まで出かけるという運動になります。運動不足・糖尿・肥満・高血圧・喫煙・孤立は認知症発症率を1.6倍にまで引き上げます。運動と孤立回避を地域で提供できれば、介護者となる家族の苦労も含め、どれだけ住みやすい町となるのか。僕はこの話を、若いお客様にも広めています。親御さんはもちろん、本人たちも予防してもらいたいからです。今後も、マスメディアに決して出てこないこの情報を少しでも広めたいです。

    1. 鈴虫 より:

      阿部さん、お久しぶりです。
      認知症の予防には『食事、運動、交流』が大事なのですね。うつのような症状から認知症に気がつくというパターンもあるそうです。本人が1番先に「なんだか変だぞ」と気がついて混乱するということだそうです。自分にも周りの人にも、いつもと違う様子が見られた時に素早く気がつけるよう、普段の様子を知っておくことも大事なのでしょうね。
      私も認知症を出来るだけ遠ざけるように、規則正しい生活を心がけて楽しく過ごせる場所には出かけるようにしてみます。
      それに加えて、地域の人達とお互いに見守り助け合い、支え合えるようなイイ関係を築いておけば心強い備えになるのでしょうね。

      楽しみを求める理由付けができました!ありがとうございました。

      1. 阿部 優 より:

        鈴虫さん

        少しでもお役に立てたらうれしいです。
        老い自体は平等にやってくるものですが、健やかな老いとそうでない老いがあります。
        みんなが少しでも健やかな老いとなれば、家族の気持ちも国家の税金もとても楽になるでしょう。

        1. 鈴虫 より:

          阿部さん コメント有り難うございました。
          私自身もですが、周りの人達と一緒に「健やかな老い」を目指していきたいです!
          老いさえも楽しんでいればカッコいい大人に近づけますね。
          これからもご助言を宜しくお願いします。ありがとうございました。

  2. 鈴虫 より:

    近頃は、毎日のように耳を塞ぎたくなる様な嫌なニュースが続いて気が滅入ります。そんな世の中を生きながらも、心の中には細やかでもオアシスを感じながら天寿を全うすることが目標です。

    肉体的な老いを自然なこととして少しずつ受け入れることはなんとか出来ても、気持ちが萎えてしまうことは受け入れ難いのではないでしょうか。どん底まで沈まないうちに気づき何か手当てが出来ればいいのですが、日々の忙しさに自分のことはつい後回しにしがちです。でも、自分自身が健やかであればこその仕事であり他者との関わりだと思って、時には立ち止まってでも自身のメンテナンスをする必要があるのだと思います。

    どの人もありのままそのままを受け入れ合える柔らかな関係性を大切にしていきたいですね。「大丈夫、そのままでいいよ」と気持ちを緩めるおまじないを自分自身にも周りにもかけていきたいものです。

    老いは誰にも平等にやってくる。この平等にという所に救いがあるように思います。

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