保健体育 第2講『高齢者うつ・フレイル』

一般に「うつ」とは、心に元気がない状態を指します。うつは気分の障害です。気分が沈滞すると、くよくよとして、なにも手につかず、考えも浮かばないような状態から抜け出せなくなります。こうした状況が行き過ぎると、仕事も手につかず、なにもかもやる気が起こらず、体はどこも悪くないのに布団から出られないような感じになったりします。

 うつは年齢にかかわらずおこりうる病態ですが、高齢者における問題として認知機能の低下と並んで重要な位置をしめています。アメリカの研究では65歳以上の高齢者の10%には何らかのうつ病性障害が認められるそうで、日本の研究でもニュータウン在住の高齢者の3分の1にうつ状態が認められましたとする研究があるようです。その有病率の高さからも、高齢者にとって、うつの存在は重大な問題です。

 高齢者にみられるうつは、他の年齢層とは異なる特徴が幾つかあります。高齢者期には、加齢に伴う心身機能低下、社会的な役割喪失への不安が生じてきます。そのような状況のもとで、心理的には、心身機能の低下と孤独が発症に繋がっていくことが多く見られます。

 また、うつは、心と体が連動し分かちがたく結びついていることが重要です。高齢者は特にこの傾向が強く、臨床場面では、心と身体を別々に治療しようとしても、なかなかうまくいかないことが多いそうです。

 高齢者では、うつと生活習慣病との関連も重要です。特に、うつ病と糖尿病の発症はお互いに影響を与え合っており、うつ病において糖尿病の発症リスクは1.6倍に上がり、糖尿病例ではうつ病発症リスクが1.15倍高いことが報告されています。高齢者において、うつを予防するためには、このような生活習慣病に対する身体管理への意識を高めることも重要となります。

 また、高齢者の健康に関する新しいキーワードとして「フレイル」が注目されています。「フレイル」とは「自立した生活ができる健康な状態」と「介護を受けなければならない状態」の中間の状態を指します。「フレイル」は健康な状況に戻ることが可能な状態であることが特徴です。高齢者の多くが「フレイル」の段階を経て、要支援・要介護状態になっていくことから、健康な状況に回復できる「フレイル」の段階で、早期発見し対処することが重要です。

 レイルの進行により幸せと感じる気持ちが低下しているとする報告があります。この為、高齢期を幸せに、気持ちを豊かに過ごすためにも、フレイル予防はとても重要であると言えます。

参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

前回のふれあいサロンを取り上げた民生委員新聞号外を話題にしている二人
今回も来てくれた若いお母さんと1歳3ヶ月の子ども(ご近所のアイドルなそうです)
お世話役の挨拶の様子を取材する仙台放送
(5月26日月曜18時9分過ぎから放送予定)
お隣さん同士、ではない。この会で仲良しになる
「歌を歌わせて!」
おかわりを注いでまわる晩酌の会メンバー
他地区(桜ヶ丘団地)から見学に来た自治会長さん

 前段の「高齢者うつ」や「フレイル」には共通した社会関係がみられます。それは、他者との関わりが希薄になっていることです。このことは認知症の発症リスクにも関わっており、他者との関わりを保持している方と閉じこもり状態の方では、閉じこもりの人は、8倍も認知症発症率が高いという疫学調査があります。

 また、他者との関わりは、そこに「役割」が必然的に生じます。この役割は、社会的有用感や自己肯定感を高めることに有意に働きます。

 最近、「高齢者うつ」「フレイル」「他者との関わり」「役割」のキーワードを実感する関わりに参加する機会を得ました。一つは、私も構成員である長命ヶ丘四丁目西町内会での『ふれあいサロン(私は「女子会」と呼んでいます)』。二つ目は、南三陸町田の浦地区で行われている『縁側日和』です。共に、主力メンバーは正真正銘の高齢者、それも後期高齢者です。この方々に共通しているのは「楽しい」と「役割・出番」です。この二つの要素が、他者との関わり及び日常生活の活動量を増やし、日常と非日常を行ったり来たりすることで、日々の淡々とした生活に潤いと活気をもたらしているように感じます。

 『ふれあいサロン(「女子会」)』に参加した人達は、その場だけではなく、日常行為の中で、これまでの黙礼・簡単な時候の挨拶から立ち止まってお話しするようになったと聞きます。今日、聴いた話では、ふれあいサロンに参加した人達が、それをきっかけに、近隣の5人がランチを楽しむことに発展したとのことです。

 『縁側日和』では、地区の契約講から地区内の神社に鈴緒の更新を依頼され、皆さんが一から作り上げていました。今回で2回目なので、前回よりも手早さが増しているように思えました。何より、「契約講から頼まれた」「神社に新たしい鈴緒を奉納する」ということが、とても生き生きと活気のある鈴緒づくりを醸し出していました。

 この様な状況を見ると、「高齢者うつ」「フレイル」対策としてやっている訳ではありませんが、こうした役割のある他者との関わりは、結果として「高齢者うつ」「フレイル」にも効果的な活動と言えるように思います。〇〇予防などと言った言い方・目標設定ではなく、全ての人に何らかの役割のある生活を身近な場所に設け、それを近隣者と一緒に楽しみながら行う。こうした活動の持つ力を感じた数日でした。

『鈴緒』の芯となるロープ
紅白の布を巻き込むためのお裁縫
幾つもの「手」の重なりで組み込まれる「鈴」これが『鈴緒』となる。
鈴を「わかめの種はさみ」の要領で組み込む
今日来られなかったお家を周り、全員の参加で仕上げ5月25日奉納予定
次の『わくわく企画』

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

保健体育 第2講『高齢者うつ・フレイル』” に対して6件のコメントがあります。

  1. 鈴虫 より:

    長命ヶ丘四丁目の『ふれあいサロン』と『おせっかいcafe』のコラボが、仙台放送で放映されましたね。
    だいぶ日にちが過ぎしまいましたが、リアルタイムで見ました!
    こちらのhpで静止画だった場面が、音声つきで動き出し、まるで知り合いが映っているようで感激しました。
    メンバー其々の口から活発にお話が出てくるのは、心から地域を愉しむ術を見つけたからでしょう。
    誰かに言われたからではない、「私が楽しい」「私が嬉しい」という想いが伝わって来ました。
    みなさんの明るい雰囲気に本間先生のお話も軽やかで楽しそうでした。
    「昨日まですれ違っていた人と、挨拶が出来るようになった」と話されていた様に、地元地域ならではの愉しみが、元仕事人間を地域に馴染ませることに繋がったようです。

    私の地域では震災後のまだ混乱した状況の中で「生活不活発病」などと病名をつけられて、引きこもりの悪影響が流布され、怖がらせるような動きがあったと記憶しています。
    でも、『北風と太陽』ではないけれど、脅かしよりは楽しみの方が絶対いいです!

    とても素敵な『ふれあいサロン』と『おせっかいcafe』の様子でした!今後もそれぞれの地域を楽しんで、いきいきと過ごしましょう!
    ありがとうございました😊

    素晴らしく明るい希望が映し出されていました!

  2. スマイル より:

    ご紹介いただいた2つの事例、写真からなんとも楽しそうな素敵な空気感が伝わってきます。その「楽しさ」は単にイベントが楽しいという単純なものではなく、出番があることの喜びや交流できる幸せ、そういう宝物がつまった「楽しさ」だと感じます。

    先日一緒に活動をしているスタッフと私の実家の庭のバラを見に行きました。毎朝早く起きて80歳を過ぎた両親が心を込めて手入れしている庭。感激してくれている参加者の様子を見て自分がこの価値を「あたりまえ」のように思いつつあったことにハッとしました。日常を心を込めて大切にすること、そうすることによって心と体の健やかさが保たれること、それが周りにもじわじわと伝わって静かに良い影響を与えていくこと・・・誰よりその恩恵を受けているのは暮らしを美しくして健やかに過ごす両親をもつ私なのだと気が付きました。

    まさに、日々の暮らしこそ「祈りの場」であり「修行の場」であると感じました。いつの間にか「あたりまえ」となり感謝の気持ちが薄れてしまうからこそ、日々祈りや行動が必要なのだということをあらためて学びました。ついつい遠くや周りが気になってしまうけれど、今暮らしている場こそ「聖地」にできるよう、私も両親を見習いたいと思っているところです。

    1. 鈴虫 より:

      スマイルさん
      『その「楽しさ」は単にイベントが楽しいという単純なものではなく、出番があることの喜びや交流できる幸せ、そういう宝物がつまった「楽しさ」だと感じます』
      この一文にとても共感できます。

      私はこの様な気づきに至るまで、なんだかモヤモヤして、素敵な活動を進めていながら「これで良いのか?何か足りていないのでは?」と葛藤がつきまとっていました。
      でも、ある日気づいてしまったのです。
      いくら私が「こういう事を始めませんか」と唄っても、それに共感して愉しんでくれる人が居なければ、それは「絵に描いた餅」で終わるのです。
      ところが、ひとりふたりと想いを同じくする人達が集まり、一緒にその場を創ってくれる。こんな幸せなことはありません。
      だから私はみなさんにその事を素直に伝え、感謝の言葉を贈りました。
      ちょうど『縁側日和』1周年の時でした。

      今回、スマイルさん達の『成田田園都市計画』の第一歩を、ご実家の素晴らしいバラのお庭から踏み出せたことに、私も胸がいっぱいになりました。ご両親の心から喜ぶ姿や、娘さんがこの機会をつくってくれたことへの感謝などを想っていました。
      特別とは思っていなかったことが、この様にお仲間さん達によってその価値を再認識させて頂けたことも、スマイルさんにとって大きな歓びでしたでしょう!
      良かったですね!

      身のまわりには、まだまだお宝が眠っていると思うとワクワクは止まりません。身近なところから『耕す』うちに、またも大発見となるかもしれませんよね!

  3. 鈴虫 より:

    素敵な写真とともに『縁側日和』のご紹介も、ありがとうございます。
    先生がおっしゃるように「高齢者うつ」「フレイル」対策という目的意識は私にはありません。ただ、地域の顔馴染みが集まって、楽しく過ごす場、持てる力を思う存分発揮する場として毎月1回開催しています。

    縁側日和は「オレンジカフェ」ですが、それもあまり意識に無くなってきています。たとえ認知機能が衰えてきたとしても、地域のお仲間同士お互いに支え合っていける土壌づくりの場と私は捉えています。
    だって、みな平等に歳はとるし、今現在でも私自身がフレイル予備軍であることを自覚することもありますから。
    だからこそ、今からみんなと楽しく過ごせる居場所を整えておきたいのです。
    そもそも、私の地域には若者や子供が数えるほどしか居ないので、沢山いる高齢者が楽しく元気で居ることは地域の存続に関わる重要ミッションなのです。
    誰ひとり放って置かれる人が無いように、どなたにも役割と出番を作ってあげることを目標に楽しんでいます。

    今回ご紹介の「鈴緒づくり再び」の企画は、ワクワク企画第一弾でみんなで作りし、神社に奉納した鈴緒を見た契約会からの依頼で頂いた出番です。
    私達には棚からぼたもちとでもいうような、とても嬉しい役割に飛びつき、自然に笑顔が溢れています。
    会場に入る時には「足が痛いけど、ようやく出かけてきた」なんて言ってた方が、いちばん張り切って作業をして、記念撮影には最高の笑顔でおさまっていました。
    みなさんに「いいね!」と言って頂くようになってもまだ、私達は特別なことをしている気持ちは微塵もなく、ただみんなと楽しく地域を満喫しているだけと思っているのです。
    こんな楽しい居場所さえあれば「高齢者うつ」も「フレイル」も寄って来そうもないでしょう!
    とてもありがたいことです。

    1. ハチドリ より:

      鈴虫さん,長命ヶ丘の『ふれあいサロン(女子会)』と南三陸町田の浦地区の『縁側日和』のたくさんの写真,いいですよね。
      共に『主力メンバーは正真正銘の後期高齢者の皆さん!』というのが何とも頼もしいですね。

      私も実際に『縁側日和』の鈴緒作りに参加させていただきましたが、説明が終わるか終わらないかといううちに、「何をするのか」を悟った参加者のみなさんたち。
      布の端っこを折るか折らないかであっちとこっちで意見が飛び交い、結局「丈夫にするには端っこ、ここは折ったほうがいい!」とリーダーシップを発揮して、髪油をつけながら縫い始めた方がいたり、私の「糸は何本こ?」とか「ここは返し縫い?え、返し縫いってどうするんでしたっけ?」という疑問に応えてくださったのは、隣にいた89歳の方でした。「なんだべ、縫物すんだったら老眼鏡持ってくんだったわよ。よっく見えないがら感覚で縫ってるよ」とおしゃべりしながら、一針一針ていねいに縫っておられました。

      「感覚で縫う」ってすごくないですか?『昔取った杵柄』ですよね。
      よく先生がおっしゃる『含み資産』とは,このようなことを言うのでしょうか。
      資産(知識や技能,腕前)は貯めておくばかりではなく,ぜひ,それを投資(活用,役割発揮)してもらうことで,地域の中や一番は自分に利益がもたらされることになるのではないでしょうか。

      私は、針に糸を通す役割を命じられ、紅と白の糸でたくさん頑張りました(笑)

      鈴虫さんが『私達は特別なことをしている気持ちは微塵もなく、ただみんなと楽しく地域を満喫しているだけと思っているのです』と書いておられました。そうなんですよね。私も何度か行ってみて共感するところです。ものすごく自然体なんですよね。
      そこがとてもいいなあと感じるところで,足が痛くても,きっとまた行きたくなっちゃいます(^^♪

      長命ヶ丘の『女子会』と晩酌の会による『おせっかいcafe』のコラボもとても楽しそうです。福島県でも仙台放送12チャンネルが見れるので,5月26日(月)は即効帰り,放送を拝見したいと思います。

    2. 鈴虫 より:

      ハチドリさん、あの場の様子を詳しく書いて頂いて、ありがとうございます。
      ばあちゃん達の真剣さ、張り切りようは想像以上でしたよね!
      歳を重ねることは計り知れない希望を秘めているなぁと、その尊さに嬉しくなりました。

      紅白の布でくるまれた3本の綱を1本に揃えてみる時、ちょうど良いところに居た本間先生に「ちょっとここを持ってて下さい」と手渡しましたら、ホワイトボードの作業行程がすっかり頭に入っていたようで、直ぐに三つ編み開始です。途中、先生がチカラを入れてぎゅっと編み目を絞めながら、きっちりと立派に編むことが出来ました。おかげさまでした。
      今回、区長さんと本間先生、お二人の男性が参加してくれて、要所要所でいい仕事をして頂きました。
      縁側日和のひとり一役を、何方が来ても平等に割り当てることが出来て良かったです!
      区長さん、本間先生ありがとうございました。

      夕方には、会場に来れなかった人のお宅へ「鈴緒の出前」に行きました。
      昨日まで調子が悪かったというお隣のばあちゃんの様子を見ながら、「この鈴を挟むと御利益いっぱいだからね。明日からはぴょんぴょん跳ねて歩けるよ」と「あら、ホントに?どれどれ」と鈴挟み!いい笑顔をいただきました!
      次に相撲観戦中だったばあちゃんは「オレ、出来ないよ。ダメだから」なんて言いながら、鈴緒を見ると目を輝かせて挟んでくれました!
      その後、仏壇からチョコパイを2つ下げて「ほら、駄賃こだよ」と持たせてくれました。
      確か前回も仏壇からバナナを1本頂きましたよ、なんて嬉しい!
      次は庭先で草抜きをしていたお母さん。
      「あらぁ、なかなか行かれないでごめんね〜。私も交ぜてくれんの!」と、立派に手を洗って鈴挟み!
      この様に、みなさんは私の突然の押しかけおせっかいを喜んで歓迎してくれました。この温かい関わりが私へのご褒美なのです。
      それだもの、やめられない(笑)

      長命ヶ丘の『ふれあいサロン』と『おせっかいcafe』のコラボ風景も、いきいきとした表情の写真達からその場のワイワイが伝わってきます。とても賑わっていますね♪
      こうして2箇所の地域の居場所の写真を並べて見ると、土地柄の違いが見て取れて面白いです!
      そうか、その違いこそがそれぞれの居場所の自慢になります。あらためて私達の色を特色として打ち出していくのが良いなと、大きな気づきとなりました。
      本間先生この様な形でご紹介くださって、ありがとうございました!

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