アナログの情報伝達・情報共有

前回(10月3日)では、365日生活支援員の各戸訪問での出来事を、翌朝行うミーティングで共有していることを書きました。今回は、翌朝行うミーティングの共有でが、急仮設住宅で暮らす皆さんの生活を脅かす事件の未然防止に役立った事例をお話します。

応急仮設住宅での生活が落ち着くまでは、生活支援員の各戸訪問が365日休みなく行われました。そこで気になった情報は、翌朝に全サテライトに共有されます。どのサテライトからの報告だったか忘れてしまったのですが、この様なことがありました。

親切そうなお兄ちゃんが、「味噌」を抱えて応急仮設住宅を各戸訪問していました。出てきたご高齢の入居者に、その「味噌」を手渡すと、高齢者は、何度もなんども頭を下げてお礼をしていたというのです。問題はそれからです。何と高額なお金を請求されたというのです。受けとってしまった高齢者は、返すことも出来ずに肩を落としため息を付くばかりだったといいます。

当時、応急仮設住宅には、様々な支援団体が入れ替わり立ち替わり出入りして、多くの「支援物資」を提供してくれました。経済的にも苦しい応急仮設住宅での生活だったので、全国の皆さんに助けて頂き、感謝の言葉しか返せない状況にありました。しかし、そのような状況が長く続くと、言葉はキツいのですが、当時「もらい癖が付く」と言う言葉を聞くらい頻繁に物資支援が多く、ついつい、全てを善意の行為と思い受け取ってしまうのです。また、このことを被災者側に立って言えば、せっかく遠くから駆けつけてくれたボランティアの方の善意を「断れない」という心理が働くのです。この高齢者は、「支援物資」と勘違いして受け取ってしまったのです。

同じようなことで、「換気扇をお掃除してあげます」という悪徳商法もありました。これも、一人暮らしをしている高齢者を狙った卑劣な行為です。このような「もらい癖」「善意を断れない」につけ込んだ悪徳商法が応急仮設で行われたのです。

この様な情報は、毎朝のミーティングで共有され、他の仮設住宅団地での発生を未然に防止すべく、各サテライトで工夫を凝らしたチラシを作成したり口頭で注意喚起を行っていました。主婦層が主力である生活支援員は、こうしたことには非常に敏感に反応し、素早くかつ的確に対応していました。こうしたところにも「市民的専門性」は十二分に発揮されていたと思います。

被災者支援の拠点(2021/05/08)

このような事例は、被災地に限ったことではなく、現在の地域社会おいても多分にあることです。「オレオレ詐欺」や「卵をただで提供して最終的には羽布団を買わせる」「健康によいサプリメントから始まり高い健康器具を売りつける」等々、様々な高齢者を狙った詐欺的行為が身近で起きています。

南三陸町では、生活支援員を経験した人が沢山います。この生活支援員とて経験は、日常で起こる様々な心配事に対して「近隣のお互い様」として生かされると思っています。また、滞在型支援員の仕事を終えても地域のために尽くしたいという意思を生かすことに端をはする、2015(平成27)年4月から始まった「ほっとバンク」登録者は195名(2022/09現在)です。

こうした、「近隣のお互い様」を支える人財が、南三陸町には多くいます。これらの現実は、東日本大震災からの学びを今に生かす「南三陸町社会福祉協議会」の存在の大きさを物語ります。

しかし、私たちの地域社会に南三陸町の生活支援員の様な方はいません。近隣で「オレオレ詐欺」が起きても、ほとんどの人は知りません。パトカーが止まっているのをみて「何事!」って、遠巻きにみているだけです。この本来簡単なはずの、これまでは当たり前だったはずの「近隣のお互い様」が出来にくくなっている社会。いったい私たちの社会はどうしてしまったのでしょうか。意識は、近隣社会の互助・共助には向かわず、「都市的生活様式」(全てを外部の市場に委ねる生活の仕方)に向かう。家族の数が少なくなればなるほど、自律する為の生活コストは高くなります。

厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2019年)によると、65歳以上の公的年金等を受給している高齢者世帯のうち、「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」は48.4%となっています。つまり、公的年金だけで生活する世帯が約半数を占めているということです(出典:公益財団法人 生命保険文化センター)。この様な家計の状態では、「都市的生活様式」で暮らすのは非常に厳しいのです。もう一度立ち止まって現状を考えてみる、そんな時だと思います。

皆様からの感想・ご意見などをお待ちしています。

アナログの情報伝達・情報共有” に対して2件のコメントがあります。

  1. 阿部優 より:

    こんにちは。
    最近は特に、アナログの情報伝達・情報共有はとても大切だと感じています。官報に出ている、市役所に聞けば教えてくれる、掲示板に貼ってある。これらはアナログですが、全く伝達共有できていません。効率は悪いですが、あらためて、直接会って伝える、直接電話で伝えることが大切だし、そうしたいと思います。効率よく生きたいわけでもないですし。

    1. 鈴虫 より:

      阿部さんの仰る「効率はわるいですが、直接会って伝える、直接電話で伝えることが大切だし、そうしたいと思います。」私も同感ですし、その様に直接つたえてもらえると助かります。さらに「効率よく生きたいわけでもない」というひと言に大きく頷いています。

      世の中は技術の進歩に伴って、多くの事が簡単にスイッチひとつで済んでしまうようになりました。その仕組みについていけない私のような者は、まるで全ての能力が劣っているかのような錯覚の中に埋もれてしまいそうです。

      ところが、地域の見守りを例に考えてもスイッチポンで済むような事などひとつも無いのではないかと思います。
      様々な課題には個別性があるし、個々人の生きてきた道程を知り、課題の背景を見ようとしなければ解決策には辿り着けません。
      隣近所の生活の音に耳を傾け、会えば挨拶を交わすことでいつもと違うことに気がつけると思うから。
      合理的な仕事を目指すことが悪いことではありませんが、人としての温もりある関わりというのも廃れさせるわけにはいかないし、時代を超えて良いものは残るのです。

      阿部さんの作る木の家は、呼吸をしながら暮らしに馴染んでいくそうですね。そんな家で、経年変化に思いを寄せながら、ちょっと深呼吸したくなりました。

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